Alternative Issue

個人的な思考実験の、更に下書き的な場所です。 自分自身で消化し切れていないことも書いています。 組織や職業上の立場を反映したものでは一切ありません。

水道橋博士問題

 テレビ大阪という一地方番組における、番組中の降板宣言がちょっとした話題になっている。内容は、その発言により多くの場所からバッシングや否定的なコメントを出された橋下大阪市長が出演し、所謂「従軍慰安婦」問題についての討論がなされた中での出来事であった。
 まず、その放送の前回に橋下市長の従軍慰安婦問題に関する発言は大いに問題があると、その番組に出演していたコメンテーターが全員そろって、橋下氏の発言を様々な形で非難したところから始まっている。人によっては従軍慰安婦の否定自体がだめだという人もいれば、従軍慰安婦は存在しないという立場ではあるが、橋下市長の発言内容が稚拙であるという面まで含めて様々ではあったが、番組の雰囲気は橋下バッシングに終始していたと言ってよい。ところが番組が視聴者アンケートを取ったところ、8割もの人が橋下氏の発言を問題なしとして評価したのである。

 この結果を素直に画面に出したのは関西のテレビ局ならではなのかもしれないが、スタジオにいたコメンテータたちは唖然として、とっさに反応もできていなかった。次週に橋下市長が登場するようになったきっかけはわからないが、状況としてはコメンテーター達と橋下市長といういつもながらの全面対決の構図であった。
 ここからは私の感想もかなり入るので、その評価が妥当かどうかは言えないが状況をそれなりに追ってみたい。当初より、橋下氏批判側のコメンテータたちの意見は、それぞれが異なる観点から批判していたことから足並みが全くばらばらであった。すなわち、一人対集団のように見えながら、一人対ばらばらの多人数という状況の議論であったと思う。もちろん全く違った印象を受けた人もいるだろう。だから、私個人の偏った評価だと思っていただいて結構である。
 番組の早い段階で、前の週の視聴者アンケート結果を受けて橋下市長が「コメンテータのような気楽な存在は責任なく言いっぱなしでよいな」といった感じの毒づいた反応を示し、「それに対して視聴者は冷静に見ている」と口火を切った。毒づく過程でコメンテータのことを「小金稼ぎ」と呼んでいる。なお、その段階では「小金稼ぎ」という言葉に直接の反応はなかった。

 議論は、正直言えばいろいろな場所で見るいつもの掛け合いであるが、イメージ論を押し付けているのはコメンテータ側のように私には見えた。上述したように、橋下市長に否定的なコメンテータたちのスタンスがバラバラなため、議論が集約しないのである。
 私個人としては、日本は法治国家であり法の支配を受けるのであるから、感情論ではなくまず原則として法の論理で考えるべきだというのが姿勢である。裁判でもそうであるが、証言そのもののみでは証拠としては不十分であり、そのものの証拠がなかったとしてもそれを示唆する証拠が状況証拠として存在しなければ立証には不十分である。
 現状で、韓国が唱えている従軍慰安婦という問題は、国家がそれを強制したか否かと言う争点であるから、そのためには国家が強制したということを少なくとも十分に推測させる証拠がなければならない。これに関して、十分だと思えるものを私は知らない。
 加えて、裁判においては現在の法体系や社会状況ではなく、当時の法体系や社会状況により判断しなければならない。当時は日本人ですら不法行為ではあるが売られるような状況にあった時代でもある。そのことは必ず考えられなければならない。

 こうした状況をもっとも冷静に話していたのは、橋下市長だったと思う。他のコメンテーター達は慰安婦たちの不遇からくる感情論や、韓国と日本の主張が異なる水掛け論などから、現状を維持すべきと言う発言のように感じられた。しかし、現実には日本を貶めるような行為を韓国が世界中で繰り広げている現状がある。日本が現状を維持しても、その結果は日本イメージの失墜になるのは間違いない。この問題点を発言をしたコメンテータは一人だけであった。議論は、慰安婦問題の問題認識を深めるというよりは橋下市長をいかに懲らしめるかといった様相にあった。

 そして橋下市長が再び「小金稼ぎ」発言をしたのを受けて、水道橋博士が番組降板宣言をして終了少し前に退出したわけだが、正直言えば橋下市長が「小金稼ぎ」を意識して言った相手はおそらく水道橋博士ではなかっただろうと思えることがある。
 実はその前の週に、橋下発言を「吐き気がする」と言いきったコメンテーターがいた。だとすれば、当然その言葉も橋下市長の耳には入っていたであろう。識者としてそこまで言うのだから、当然それなりの論拠をもって橋下市長のどこに問題があり、どうすべきかを示すことが求められると私は思う。
 ところが、そのコメンテータは曖昧な非難を繰り返すだけで、筋道立った論拠により橋下市長の発言の誤りや論拠の間違いを提示できなかった。橋下市長は繰り返し、「では、○○さんはどうすべきだと思うのですか?」と問いかけたが、一度もそれに対する自分の明確な意見を言うことはなかった。
 要するに、目的が非難することにあったという証左ではないかと思う。だとすれば、「小金稼ぎ」という言葉はおそらくこのコメンテータに投げかけたものであろう。

 そういう意味では、識者ではなく芸人枠でコメントしていた水道橋博士は、2つの間違いを犯している。一つは、おそらく自分に対するものではないバッシングに反応してしまったこと。もう一つは、芸人枠だという自覚なしに迂闊な対応をしてしまったこと。
 後出しで、かつて橋下市長が別の番組を降板したケースのパロディだと言い訳しているが、それはこじつけに過ぎないのは多くの人が理解していると思う。芸人なら、芸人らしく上手く返す方法などいくらでもあったであろう。それができなかったのは、別の心理(個人的な反感)が先に立ってしまったからだと思う。いろいろなしがらみがあったようだが、それを番組内に持ち込むこと、しかも1回限りのゲストに対してぶつけるとすれば稚拙だというそしりは免れまい。それ故にこじつけにも近いパロディだというどう考えても成功しそうにない手段を正当化せざるを得なかったのだろう。まあ、プロとしての矜持を先に無くしてしまったわけである。

 私は従軍慰安婦という言葉は正しくないし、韓国と日本の反政府団体によるプロパガンダだと思っている。そういう意味で、橋下市長の言っていることは間違っていないと思う。ただ、ここまで来た経緯を無視して単純に正論のみで押してもそれが問題解決を図る上でのベストのコースだとも思わない。
 ここにきて橋下市長もかなり軌道修正していると思うが、この問題は日韓だけでは決して解決できないので他の国々を巻き込まなければならない。巻き込むというのは味方になってもらうという意味である。それにもかかわらず、橋下市長はアメリカに喧嘩を売るようなことを言い、あるいは世界は同類だと世界各国の暗部をさらけ出そうと試みた。それ自身は真実であろうが、これでは世界は日本に協力してくれない。その面で発信の仕方は明らかに間違っていたし、稚拙であったと思う。

 ただ、以前にも書いたが自民党は今回のことで漁夫の利を得たと思っている。言いたくてもしがらみの関係で強く言えなかったことを、橋下市長が代弁してくれた。日本政府の立場を守りながら、問題のみを再び世界の議論の俎上に上げることができたのだ。これは、マイナス面を橋下市長に押し付けることができたという意味で、ずるい態度ではあるがメリットを得たと思う。
 その上で、アンケート結果でもわかるように大阪では橋下市長の人気はそれほど落ちていない。マスコミは維新の会の支持率下落を報道することでその影響を削ぎたいようではあるが、それほど落ちないのではないかと私は感じている。むろん、伸びたわけではないのだが。
 ここ最近の言動からその上で、私自身は橋下市長の政治力をそこまでは期待していない。彼にはブレーンを見る目がない。その一点で政治家としてはこれ以上大きくは価値を高めないだろうと見ている。もちろん、それでも数多くいる箸にも棒にもかからない政治家よりはずっとましではある。

 水道橋博士はプロとしての芸人の立場を忘れてしまったために、テレビ人としては一定のダメージを受けたと思う。その程度までは読み切れないが、個人的な感想ではそれなりに大きいのではないだろうか。