Alternative Issue

個人的な思考実験の、更に下書き的な場所です。 自分自身で消化し切れていないことも書いています。 組織や職業上の立場を反映したものでは一切ありません。

アベノミクスへの正念場

 私自身は以前より政府の積極財政を肯定してきたので、現状においてアベノミクスと称される政策全般を反対するつもりはない。一喜一憂すべきものでは無いが、少なくとも現状株価は上昇し、輸出企業は競争力を取り戻しつつある。円安は国家全体として考えれば国力の弱体化を意味するが、輸出企業が競争力を取り戻すための一時的なドーピングと考えれば劇薬も薬として十分利用できる。もっとも、1ドル100円程度が円安というのは少々おかしな話であろう。小泉時代には120円だったのだから80円を割っていた状態が放置されたことが異常だったのだ。ちなみに言えば、小刻みな為替介入などは政府の意思を示す以上の意味はない。ただ、民主党時代に行った為替介入資金は円安のおかげで為替差益を勘定できるようになっているのはあまり報道されていない。その分くらいは今のうちにドルを円に替えても良いのではないか。仮に80円の時に行った介入を10兆円として、それが100円で円に戻せば2兆円の臨時収入である。民主党の馬鹿げた介入ではあったが、上手く帳尻を合わせられたと言っても良い。

 さて、現状は日銀の方針転換による金融緩和が主体となっている。おそらく、この後にマスコミからは批判を受けつつも積極財政が行われるものと思う。はっきり言えば赤字国債(あるいは建設国債)が増発される。発行した国債と同程度を日銀が市場において買い取れば、プリンティングマネー(通貨の増加)が図られる。これも劇薬には違いない。だから多くの識者が警鐘を鳴らし、場合によっては「ハイパーインフレ」だとか、「通貨の暴落」などというセンセーショナルな言葉までが踊ってきた。しかし、現状において国債市場の多少の動揺はあったものの、長期金利はむしろ低下しているのだからすぐに日本経済が無茶苦茶となるという状況にないのは確かである。
 無論、この政策を永遠に続けるとすれば大変なことになるのは目に見えている。そんなことは誰にだって判る。重要なのはこの後の対処や運用なのだ。だから、積極財政否定派と肯定派の議論は噛み合っていない。否定派はまるでこの政策が永遠に続くがごとき表現をし、肯定派はそれを行わないことによるデフレ継続などの問題点を訴えかける。
 しかし、最も重要なのはこの政策からいつ抜け出すのかなのだ。かつて日銀は量的緩和の停止時期を見誤り日本を長い不況に迷い込ませた(もちろん日銀のみの責任ではない)。他方、かつての大蔵省はバブルを認識できずに壮大な打ち上げ花火を日本経済で行ってしまった。もちろんその後の処理も結果論で言えば失策続きであった。

 積極財政が日本の景気を一時的にとは言えど良くすると私は思う。そして、民需の立ち上がりが始まればいつかは政府が態度を180°変えて緊縮に向かわなければならない。このタイミングは本当に難しい。日銀のミスも大蔵省のミスも、タイミングを計れなかったことにある。
 ましてや、景気が本当に良くなればなるほどに抜け出す勇気が出てこなくなってしまう。再びの景気の腰折れを怖がる心理が、政治家にも官僚にも芽生えてしまうのだ。止める時期という最も難しいミッションがこの後に控えているのである。
 実際には、その最大のポイントの前にもいろいろと抵抗があり、政策を継続することは簡単ではないと思う。ただ、この停止時期については同じ政権が継続している間に来る可能性はそれほど高くないと感じている。すなわち、3年や4年でそれが来るとは思わないということだ。それ故に政策の撤退方法と撤退時期についてもきちんと準備を勧めていくことが肝要であろう。

 私はアベノミクスの正念場は導入や発展ではなく撤退にあると思う。