Alternative Issue

個人的な思考実験の、更に下書き的な場所です。 自分自身で消化し切れていないことも書いています。 組織や職業上の立場を反映したものでは一切ありません。

地方公務員人件費削減問題

公務員人件費についての私の考え方は既に何度も書いているのだが、ちょうど麻生副総理兼財務・金融担当大臣が地方公務員給与の削減を知事会に要求したというニュースがあったので、再度おさらいしてみたい。
地方公務員給与削減めぐりバトル 麻生氏「避けて通れないんだ」 全国知事会長「唐突に言われても」(http://sankei.jp.msn.com/politics/news/130115/plc13011521380009-n1.htm

まず、大原則として現状は民間給与と比べて公務員給与は恵まれている。これは、民間が非正規雇用を増やしていることが最も大きな理由であると思う。正規雇用の人件費(しかも一定規模以上の企業)と比べれば公務員給与は高くないとの指摘はそれほど間違ってはないかも知れない。
ただ、人事院などを通じたこうした比較は多くの国民からすれば理解しがたい面を持っている。平均的に見れば格差があるのは間違いなく、その格差は原則として埋められなければならない。
ところで、格差を埋めるための方法としては二つある。一つには、民間給与が向上することだ。それが国民生活を豊かにすることでありもっとも望ましいのは言うまでもない。実際、これまでの政府も常にそれを求めてきたとも言える(菅元総理の「最小不幸社会」は違うが)。ところが、現実にはそれがもう長い間上手く機能していない。公務員の方が給料が高いという逆転現象が永らく固定されてしまっている。だから、現在その是正をすべきだということで公務員給与の引き下げが論じられている訳だ。
公務員給与の引き下げを個別に考えれば、日本全体の景気にとっては必ずしも良い方向に働く訳ではない。ただ、その分の費用を政府が別の支出に振り向ければ、国全体としては補填できる。形を変えた民間給与向上策ともなる。

さて話は戻るが、全国知事会長である山田啓二京都府知事は「唐突に言われても…」と答えたという報道だが、これははっきり言ってあまりにお粗末ではないか。国家公務員は既に震災復興という名目で時限的ではあるものの給与引き下げを行っている。国家公務員に準じるべき地方公務員のみが、その流れから外れられると考えていたとすればあまりにおめでたい。当然その段階で地方公務員給与(実質的には交付税)が引き下げられることについても予測できたはずである。
それを唐突だと言うのは、考えておくべき事を敢えてしなかったからに過ぎない。その不作為こそが問題とされるべきであろう。ちなみに、知り合いの官僚に聞いたところ2年間という時限の給与引き下げが期間満了後も戻らない可能性についてすでに諦めているようであった。今後も紆余曲折はあるだろうが、引き下げ期間が延長される可能性も経済状態などを考えれば十分にあるだろう。
地方に独自の税収が不足しているという面は確かにそのとおりであるが、結果的には地方交付税により不足分が補填されるという長年の慣習が、そこからいかに多くの人件費を引き出すかという歪んだ目的に変質しているとすれば、まずはそこから改革されるべきだと思う。地方自治体には、自ら改革すべき点がまだ山ほど存在している。

繰り返しになるが、現状において民間給与が公務員給与よりも低いのは非正規雇用などの広がりが大きい。これが解消できるのであればいいのだが、グローバル化を突き進む現在の社会情勢を考えれば、民間給与の大幅な増額は易々と成し遂げられるとは思えない。内需拡大により海外との競争がない分野で引っ張り上げられれば多少は改善するかも知れないが、それも公共事業への支出は無駄だとか、あるいは不明瞭な補助金などと批判に晒されがちなので容易ではない。先端分野に従事する人などはごく一部に過ぎない。そこへの投資が重要なのは間違いないが、景気を引き上げるには従来の産業にもお金が回らなければならないのだ。その上で、少しずつ新しい形に日本の産業形態を変えていくことが肝要であり、一気に変われば経済は大きく混乱する。
現状を見る限り、国際競争を行うためには賃金の安い地域との競争に打ち勝たなければならないのだから、民間給与に下方バイアスが掛かり続けるのはある意味では当然のことである。そう考えれば、とりあえず国内の不公平感を解消するために公務員給与を引き下げて、それにより生み出された資金を民間景気拡大(震災復興などを通じて)に活用するというのは筋が通る議論となる。
地方分権が今も叫ばれるが、それは権限および財源の確保と言うだけでなく責任を地方が負うと言うことだが、果たしてその体制ができているのかと問われればはなはだ心許ないのは言うまでもない。