Alternative Issue

個人的な思考実験の、更に下書き的な場所です。 自分自身で消化し切れていないことも書いています。 組織や職業上の立場を反映したものでは一切ありません。

景気は心理に従属す

景気のことについていろいろと考えてみるが、私の理解が至らない故だろうがどうもいろいろな識者の言うことが腑に落ちない。例えば私もよく書いているが原則的にはお金を社会に多く流通させると基本的には景気が良くなる。しかしその影響は若干のタイムラグを持って長期金利に跳ね返り、景気の勢いは抑えられる。逆も同様で、本来であれば景気の停滞(不景気)が続けば金利が下がり、それが再度景気を刺激するはずである。ただ、現実には流動性の罠http://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%B5%81%E5%8B%95%E6%80%A7%E3%81%AE%E7%BD%A0)という言葉でも語られるように金融緩和が効果を為さない現象が既に観測されており、バブル崩壊後のように大きな経済の落ち込みにおいては自律的な経済回復を期待しがたいこともわかっている。
あるいは物価と給与の面で考えてみれば、景気が良くなれば給与が増える。しかしその後物価も追いかけ上昇する。だとすれば、その割合が同程度であれば実質的な生活のレベルに変化が生じる訳ではない。ところが、現実には景気は物価の上昇にもかかわらず好調を維持し続ける。これは逆もまたしかりだ。その関係がタイムラグにより生じているとすれば、確かに初期には景況感は大きく感じられるだろうが、その後は実質的な差は存在しない。もちろん、収入のアップがが物価上昇を上回り続ければプラスの景況感は続くはずであるが、無尽蔵の好景気はある閉じた経済ではあり得ない。仮にそれを満足させようとすれば、輸出等により他国から富を奪ってきた場合に限られる。かつて列強諸国が植民地を保有したのはまさにこの方法による好景気の維持であった。

だとすれば、現在社会における好景気の継続とは何によって成し遂げられるのだろうか。私は、あくまでそれはマインド(国民心理)により維持されるものではないかと思っている。もっと良くなると言う心理的錯誤が景気の波を大きくするのだ。もちろん、対外的な競争力を失うなどの構造的問題による不景気も発生するだろうが、それらは日本のように高い技術力を有しているならば挽回可能なものであり、それらはきっかけに過ぎない。
例えば、近頃野田総理自民党の安倍総裁の提示している政策を批判するために言っている「お札をいっぱい刷れば景気が良くなるわけじゃない」というのは(http://www.nishinippon.co.jp/nnp/item/336320)ある意味で正しい。お金を刷っても、それが社会にきちんと流通しなければ景気は良くなるはずもないし、そもそも量的緩和は今まで十分やってきたと日銀が言うのも嘘ではない。
ただ、では緊縮的な姿勢を続けることで景気が良くなったのかと言えば、欧州の状況を見ればよくわかる。ギリシャやスペインは緊縮を押しつけられて経済が収縮しつつある。
要するに、マインドが好転して方向性が維持されるようになるまでは、不景気により民間が自律的に動けない今の状況下では政府が率先して行うしかないと言うことである。お札を刷ってもそれ自体が経済を動かす訳ではないが、それが続くと予想する心理が経済を動かし始める。

さて、ここでこうしたリフレ政策に反対意見を述べる識者も少なくない。確かに言っていることは納得できる部分もあるのだが、私が気にしている心理面のきっかけ作りに関してはこうした人たちは何もコミットしていない。例えば、ネット上での言論者として著名な人では小幡績http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%B0%8F%E5%B9%A1%E7%B8%BE)氏と池田信夫http://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%B1%A0%E7%94%B0%E4%BF%A1%E5%A4%AB)氏が挙げられる(もちろん他にもリフレ政策に反対する人は目白押しだがここでは省略)。池田信夫氏の場合は、お札を刷りまくれば年率数十%の高いインフレが発生(これをハイパーインフレと定義:http://ikedanobuo.livedoor.biz/archives/51825180.html)と警告を行い、小幡績氏の場合にはハイパーインフレは生じないが通貨の信任を失うことが結果的に日本経済にマイナスの結果をもたらす(http://toyokeizai.net/articles/-/11850)としている。
私も3%の狙ったインフレが操作可能かと問われれば、それは正直言って難しいかも知れないと感じるところではあるが、だからと言って現状を放置して良いという話でもあるまい。戦後と異なり供給力過剰の時代に極論としてのハイパーインフレを煽る人(http://mainichi.jp/opinion/news/20121128ddm003070161000c.html)の意見などを聞に値しないが、それでもリフレ政策の負の面を見つめる必要はある。
なぜならば政策の結果として経済そのものがどう動くのかではなく、国民の心理がその事実によりどう触れるかが問題だと思うからである。最初から触れているが、少なくとも世界に冠たる技術力を持っている日本が極端に落ち込むことなどない。通貨の希釈により円安が進めば輸出主導で景気はバランスするし、経済のスタビライザー(http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B9%E3%82%BF%E3%83%93%E3%83%A9%E3%82%A4%E3%82%B6%E3%83%BC)はそう簡単に破壊しない。むしろ畏れるべきは、日本の生産能力や技術力が低下していくことであり、これで円安になれば競争力の優位性を失うために危機感を抱くべき事態であろう。
不景気が先かデフレが先かの鶏卵論争は置いておくとしても、デフレの現状は徐々に生産能力や技術力を失っていくという意味でやはり怖いのだ。

私はテクニカルな正誤論争よりは、市場だけでなく国民経済全体のマインドをポジティブにさせる政策が最も正しいと思っている。それが行き過ぎればバブルを招くのでどこかで歯止めは必要なのは確かだが、その歯止めが難しいと言って緩やかなネガティブを続けることも真ではないと思う。
ポジティブな心理を創出させるために、構造改革(供給能力向上)と政府支出(需要創出)のどちらが重要かと聞かれれば、私は両方とも重要であると思うのだが少なくとも現時点ではまず需要を生み出す事が勝ると思っている。それはこれまで触れてきたように社会の心理的状態をポジティブにするためだ。
経済の専門家でも何でもない私の戯れ言なので間違った理解も少なくないと思うのだが、それでも国家経済の心理面をあまり語る人がいないのが私には腑に落ちない。それを好転させるためにどの経済政策が最も効果的であるかを競うべきではないだろうか。