Alternative Issue

個人的な思考実験の、更に下書き的な場所です。 自分自身で消化し切れていないことも書いています。 組織や職業上の立場を反映したものでは一切ありません。

燐問題

尖閣衝突問題から引き起こされたレアアース(希土類)輸出規制は、結果的にその対応を短期間で成し遂げた日本の技術変化により、中国のレアアース輸出が大きく落ち込むという結果になった。そもそもレアアースを加工して商品に利用シェアの大部分が日本であったため、そしてコスト面において安い故に中国産のレアアースが世界を席巻していたという面があったあらこそ、中国はそれをカードとして利用しようとしたし、日本はカードの無効化に努力したわけである。
今回の尖閣諸島国有化における反日では、その重要であったはずのレアアースカードはもう意味をなさなくなっていた(http://d.hatena.ne.jp/kibashiri/20121025)。もちろん日本はここ数年で急に対応したわけではなく、こうした問題が生じる事を予測して経済産業省を中心に以前より対策を立てていた事が功を奏した(http://blogos.com/article/49085/?axis=&p=1)のであるが、それ以外にも同様に中国に首根っこを押さえられている深刻な問題がある事はあまり報道されない。

肥料の原料として必須とされるものに、尿素(窒素)、燐鉱石(リン)、塩化カリ(カリウム)などがある。日本はいずれも世界からの輸入に頼っており、国内産出はほとんど無い。実はこうした元素類は世界に広く存在するが、同時に鉱石などでまとまって取れる場所はかなり限られている(偏在している)。要するに安いコストで産出できる地域は非常に限定されているというわけである。
例えば燐鉱石は、中国、アメリカ、モロッコで世界の7割の産出量を誇る(http://www.maff.go.jp/chushi/seisan/hiryou_koutou/pdf/hiryounogenjyou.pdf)。上位6カ国に広げればそれは9割まで及ぶ。レアアースが報道の中心を席巻していたためあまり知られていないが、中国は燐鉱石の輸出関税を既に2008年に倍以上大幅に上昇させている。名目上は国内消費に対応するためとしていたり、あるいは四川地震の影響があったと言われているが、当然戦略物資としての位置づけを考えた上での行動でもあろう。ちなみに、アメリカも既に燐資源は基本的に輸出禁止に近い状況にある。
現代農業において肥料の存在は必須のものであるため、食糧自給率の上昇を図りたい日本としてはその確保は最大の問題だが、距離的な近さからも現状では中国の動向に大きく左右されているのが現状だ。実際、燐鉱石の価格は平成16年頃からすれば3倍近くに上昇している。日本の農業経営に占める肥料代の割合は7〜13%程度と低くない。すなわち、肥料価格の上昇はますます日本農業の価格上昇に働く結果となるわけだ。ただ、同じように肥料価格が世界的に上昇すれば人件費の高い日本農業の競争力には僅かながらメリットがあるかも知れない。
一部では、燐の枯渇は原油よりも早いと指摘する専門家もいる(http://business.nikkeibp.co.jp/article/manage/20080606/160875/?P=2)。国家の食糧生産を考えるならば、多くの人口を抱える中国は戦略的な意味が無くとも今後はこれまで以上に燐の輸出に抑制的になるだろう。
その結果、あまり考えたくはないが増産により世界人口の増大に対応できている現在の食糧事情が一変することも考えられる。

現在、日本では廃棄物などからの燐の再回収システム研究(都市資源利用)が盛んに行われている。戦略物資として中国に利用されることも念頭にはあるだろうが、それよりもなによりも将来的な枯渇が大きな問題となる。それ以外にも大きな領海を生かした海底資源の継続な調査にも注意を払う必要があるだろう。
ちなみに、赤潮の原因とも言われる富栄養化の原因の一つは燐であるが、その他にも燐鉱石以外に輸入木材に含まれる燐資源も少なくない。変な話だが、木材を海外から輸入すれば木材と共に地中にある燐が日本に持ち込まれる。木材の産出国は、その後の燐不足に悩むという訳だ。
世界中から資源を買っている日本は隠れた廃棄物資源大国でもあるのだから、その再活用には大いなる意味があると考えて良い。