Alternative Issue

個人的な思考実験の、更に下書き的な場所です。 自分自身で消化し切れていないことも書いています。 組織や職業上の立場を反映したものでは一切ありません。

内向きに移行する反日デモ

もともと、反日デモは政府批判を許容しない中国において政治に興味ある一部人民への娯楽の一つとして許容されてきたものではあるが、同時に日本に向かってのメッセージとしても機能させていた。それが娯楽に過ぎないのは、もはや暴徒化した人民が反日を起点にその後は見境なく店を襲っていることでもわかるし、それを政府が許容しているのはデモを公安が先導し、旗や幟まで用意されていることからもわかる。一方で独立運動が存在するチベットウイグルでは大きな反日デモなど決して起こりはしない。
国内の不満が政府抗議に転嫁される危険性を秘めているだけに、あくまで政府の掌の上で踊っていなければならないという訳だ。参加する人民もそれを知っているからこそ悪のりができるのだが、だからこそ娯楽であってそれを日本に対する深刻なメッセージとして受け取る必要などありはしない。

ただ、今回のデモを見ていて思うのは中国政府のデモを用いたメッセージが、対日本から国内闘争向けに質が変化しているのではないかと言うことがある。反日デモと言うことでは2000年の頃のアジア大会でもあったような抗議デモと何も変わらないが、日本へ届くメッセージが非常に弱くなっているのだ。
尖閣問題で本当にデモを起こすのであれば毛沢東の旗は必要ないであろうし、日本が頑なになり得る現状では最初から政府がそれをもっと抑える方向に動くはずである。
すなわち、メッセージは主に日本に向けたものではない。加えて、現中国政府執行部の稚拙さがあちこちで気になる。世界資本を受け入れることで発展した中国の実像知れば知るほどに、日本排斥によるデメリットは何倍にもなって中国に跳ね返るのはレアアースの輸出禁止措置の時にも経験しているはずである。
結局のところ、北京閥(団派)と上海閥太子党)の権力闘争でこれまでは主に上海閥反日デモを仕掛けていたが、今回は北京閥がそれを上海閥へのデモンストレーションとしてデモを先導して可能性が高い。習近平の病気にかこつけて行ったか、あるいは事態収拾のために外交を放り出して習近平が消えたのかはわからないが、次の政治局員の比率をどうすうかの暗闘が今も続いているところであろう。デモは、その道具として有益に活用されているのである。
ただそれが刹那的なメリットでしかないのは、デモの質が内向きになり閾が下がることで政府批判のデモも生じやすくしてしまう。そう考えると、今回のデモは劇薬の使用に近い。対外的な政策としての実を得られないにも関わらず、対内的な権力闘争の道具として劇薬を使用したとすればそれは現状の統治機構の崩壊に繋がりかねないのだ。

ただ、一昨日にも書いたが日本としては中国が内紛で揉めてくれることは決してマイナスではない。むしろ韓国の方が中国依存を高めているだけに気が気ではないであろう。中国経済が崩れれば世界中が影響を受けるが、現状では日本に救済を頼めないだけにそんなことは想像したくもないだろう。
それでも歴史に学ぶならば、内紛のために対外排斥を訴えるようになるということは、すなわち統治体制が崩壊しつつある結果であることが多い。反日は、心理的には日本に圧力をかけるものではあるが、心理以外では日本に根本的な影響を与えない。むしろ相手方の自滅を促すものでもあるので、日本は冷静に事態の推移を見て暴発のみに備えるのが良いだろう。