Alternative Issue

個人的な思考実験の、更に下書き的な場所です。 自分自身で消化し切れていないことも書いています。 組織や職業上の立場を反映したものでは一切ありません。

世界はパラダイムシフトでしか救えない

現状の日本など先進国を包む不透明さの理由は、求めるに合致するこれからの成長の構図が描けないこともあるだろうが、それ以上に投資マネーの急激な増大が引き起こした実利の希薄化があるだろう。
現状の世界の成長率は、先進国でおよそ2%新興国で6%を平均して約4%というのが統計データなどから見いだせる結果である。リーマンショック前までは平均で5〜6%という数値であったことを考えれば相当落ち着いた数字でもある(詳しくは溜池通信vol492参照:http://www.tameike.net/pdfs8/tame492.PDF)。では、先進国においてなぜ成長の構図が描けないのかは溜池通信でかんべいさんが言及しているように、高齢化の伸長による社会保障費のそれが大きいことが挙げられる。日本の例で言えば、年金や健康保険の費用を捻出するために高齢者の資金により国債を買って貰っている。大きな目で見れば高齢者が貸し付けたお金が高齢者に支払われるという自律的な循環システムとも言える。
ただ、そこで問題となるのは政府の借金が増税という受益の少ない人にまでかかる方法で埋められようとしていることであろうか。国債として政府に貸し付けられた資金は高齢者からその子孫に相続される。税金が広く浅く掛けられるとすれば、すなわち現在資金を有している高齢者の子供達が特をする。要するに、相続という形態を持って富を固定化していることでもある。

さて話を元に戻そう。ヘッジファンドなどが大きなレバレッジをもって架空の資金を振り回すようになって、儲ける側と損する側の資金の偏りが酷くなった。その酷さが銀行にツケとして貯まった時、金融危機が発生する。ばらまかれた資金は別に減っているわけではない。それを平均化すれば社会が十分に回るだけの資金は先進国ならば有している。しかし、金融危機は基本的にマネーを増刷してそれを銀行に投入することで解消される。資金は増える一方なのだ。
一方で、利益として積み上げられた偏った資金は別の形で実体経済に流れずに固定化される。大きな資金に一定の金利を与え続けるためには運用されなければならない。しかし、レバレッジを経て巨大化した資金が世界中に溢れるわけだから、資金の集中はバブルを発生させる。その巨大な資金を満足させるには普通の実体経済の成長では不足なのだ。バブルで生み出された仮想の富のみが膨張した資金の受け皿となり得る。アメリカのサブプライムも、欧州の不動産も、そして中国の成長も、実態が皆無ではないがその実態に幾重にも輪をかけて規模が拡大する。増大したマネーがそれを希望するからだ。

ところがバブル崩壊後は収縮が一気に生じてしまう。バブルで割かせた虚飾の繁栄は何時までも継続できずに決壊する。それは実体経済の収縮を引き起こすのだ。
現在は、民間経済が膨らませた負債を世界中の中央銀行がマネーを放出して支えている。中国では内需拡大を名目として巨大な資金が開発に投入された。その通りの場所に資金が回れば安定した国内成長を得ることも可能だったかも知れないが、実際には不動産投機に多くの資金が投入されたし、あるいは必要性の低下していた資源購入にも多大な資金が投入されている。フランスのワイナリー購入に中国の資金が多数出ていると聞くと、アメリカのビルなどを買いまくったバブル期の日本そのままであると感じる。
結局、資金を増やして一息つくことはできるものの、投機に明け暮れる体制が解消されなければ同じことの繰り返しが続くのであろう。その上で増大したマネーの価値らは益々世界を不安定させる。

スペインが、10兆円の資金要請をするというニュースが出ている。その条件等が決まっているわけではないが、一番大きな問題はその資金をどうやって賄うかであろう。もちろんユーロ圏で10兆円の資金を賄うことは可能であるが、そのことでスペインが得をすると考えられれば他の国も同じ様な動きに出るであろうし、スペインが苦しむとすればスペイン経済は破綻する。現状でも若年の失業率が50%を超えようかという状態である。さらなる緊縮が課せられれば経済が崩壊してもおかしくない。
大恐慌時のアメリカの失業率が25%程度(一部では30%を超えたとの話もある)だとすれば、すでにそのレベルに達しているのだから。

今のところ、世界はお金を増すことでしか危機に対処できていない。お金を刷り続けることはいつかはインフレを招くのは事実であろう。ただ、経済が萎縮している現状においてはすぐにそれには至らない。だからお金を刷るという対処方法は当面正しく、長期的には正しくない。
世界はその短期的な成果を取りに行き、日本は長期的な危険性に怯え続けている。どちらが正しいと明確な結論を出せないのかも知れないが、それ故に現代の日本人が大きな苦しみを受けているのだとすれば、日本の取ってみる道が正しいと私には言い切れない。
そして、世界は現状の危機の着地点を未だに見出していない。ひょっとすると、それは見出せないものなのかも知れないと私は思う。大きなインフレを経験無しに、現状の危機を克服できないのではないかという考えだ。あるいは巨大な徳政令が世界を駆け巡るかも知れない。言い出すとすれば欧米が中心になるだろうが、それはおそらく世界の対立を招く劇薬である。

夢のように期待するのは、どのようなものになるかはわからないが新技術などを起点とする生活様式の根本的な変更に伴うパラダイムシフトではないかと思うのだ。今の生活スタイルが世界中でがらりと変わる。だとすれば、今ある富や権力が必ずしも維持できず、今あるものも全てが更新されていく。それが何になるかは具体的なイメージを持つことはできないでいるのだが、現状の肥大化した経済システムを打ち破る何かを期待せずにはいられない。
それくらいしか、着地点を見いだせないのである。