Alternative Issue

個人的な思考実験の、更に下書き的な場所です。 自分自身で消化し切れていないことも書いています。 組織や職業上の立場を反映したものでは一切ありません。

好きな仕事

「好きだけでは仕事はできない」と言った教訓めいた話は世間ではいくらでも見かけることができる。好きな芸術の道に進み食い扶持にも困るなんて話は良く聞くし、年を経ればそれが後悔の念を抱かせることがあるかも知れない。あるいは就いた仕事を好きになるように努力するべきだと考える人もいるだろうし、そもそも好きな仕事であっても嫌な部分が全くないはずもない。ただ、それでも大部分の人が好きだと言える仕事に就いているわけではないだろう。好きな仕事に就ける人は、一部の才能のある人と夢想家に限られてしまうのだろうか。
資産を持ち好きなことをする人は道楽だと言われるが、何も好きな仕事ができるのは「道楽」のみには限られない。そこには世間の評価に左右されない強い気持ちがあればよい。

ここで間違ってはいけないのが、好きな仕事を追いかける人が成功せずに貧乏な生活を送り、好きな仕事よりも確実に稼げる仕事を選んだ人がそれなりに幸せな生活を送れると限らないことだ。全体の平均値を見たならば傾向は見られるかもしれないが、実際には好きな仕事をしながらも一定以上の収入を得ている人も多く食い詰めている人ばかりではないし、好きでもない仕事に就きながら貧乏な人はそれ以上にいる。
夢に生きるのが貧乏だというのは、ドラマなどからくる一種のステレオタイプの考え方だと思う。もちろん、収入の安定性で言うならば夢を追わない方が良い条件かも知れない。サラリーマンの最も良いことは来月お金が得られるかを心配しなくても良いことだと言われるくらいであるのだから。
それでも、追いかける夢の程度はいろいろとあるだろうが、追いかけていると言っても様々なケースが考えられる。夢を追いかけながら好きな仕事そのものには就けないというケースは少なからずあるだろう。例えば、歌手を目指しながら一流の舞台に立てずにアルバイトなどで一時の糧を得る人は多いだろうし、いくら書いても売れない漫画家も掃いて捨てるくらいいるだろう。誰もが夢見る世界の競争は当然ながら激烈だ。

誰かが好きと思う華やかな業界は、それだけ競争の激しい世界でもある。ごく一部の成功者を多くの下積みの人たちが支えるヒエラルキー(階層)が存在する。それでも好きさから、やりたいからということでチャレンジする人は後を絶たない。逆に言えばそんなところだからこそ、その業界は皆の羨望の的となり得るのでもあろう。多くの敗者は個人レベルで見れば挫折を意味するが、業界全体で見れば厚みでもある。その厚みこそが業界にお金や人を呼ぶ。すなわち、ごく一部の成功者のみの業界などあり得ない。
好きな仕事を追いかけると言うことは、金銭的なメリットや権威を得なかったとしても大きな産業としてのうねりの一部にいることは間違いない。加えて、その王道は歩めなくともそれを支える形で好きなことに関わりつつ一定の収入を得る人も多い。その産業としての規模が大きくなればなるほどに補助的に関わる人が増えるのである。

確かに理想を言えば、夢を追い成功して好きなことをやり続けて地位も富もそして権威も得ることができれば最高であろう。ただ、本当にその仕事が好きであるならばその仕事に関わり続けるというのも一つの生き方だと思う。日本という世界的には豊かな国においては、「好きで生きていくこと」が可能なのだ。もちろん、食えない層もいる。ただ、それはサラリーマンになったとしてもギリギリの生活をしなければならないこともある。どの業界においても状況は基本的に変わらない。
強いて言えば、サラリーマンは業界のパイをなるべく皆で分け合う世界、そして好きなことをする道はパイを取れるものから取っていく世界なのだ。強者が先に大きくパイを奪えば、分ける残りの配分は少ない。

好きな仕事に就くのが贅沢でもなければ、好きでない仕事に就くのが罪悪でもない。それは基本的に本人の決断の結果であり、その結果仮に人並みよりも所得が低くても満足感があるならば人生としては失敗ではない。逆にどれだけ裕福な人生を送ったとしても、仕事の選択において後悔が大きいのであればそれは成功者と言えるかどうかは微妙である。少なくとも本人が満足できる結果ではないだろう。
要するに、仕事の貴賤や効率などを評価するのはあくまで他人なのである。本人が満足できるのであれば、仕事の選択に失敗は存在しない。ただし、他者の評価を気にするのであれば好きな仕事を選ばないという選択はこれも真である。そのように振る舞うと本人が決めたからだ。
そこにあるのは、好きな仕事にどんな形でも関わりたいという積極的な意志なのかも知れない。

「好きこそものの上手なれ。あるいは、好きという気持ちが生活をポジティブにしてくれるとすれば、その効果はプライスレスと言っても良い。」