Alternative Issue

個人的な思考実験の、更に下書き的な場所です。 自分自身で消化し切れていないことも書いています。 組織や職業上の立場を反映したものでは一切ありません。

正義論は手段なのか?

正義とは「義」があり「正しい」ことと書き、基本的に尊重すべきものとして扱われる。ただし、かつてのエントリでも触れたが、この正義は誰にとっての正義であるかに依り「正義」と認識されうるかどうかが決まる。一方にとっての正義の戦いは、他方にとっての正義であるとは限らないというか、むしろ不正義であることが多いのだから。
世の中には確かに絶対悪と呼べるような行為が存在する。しかし、それすらも人間にとっての悪であって人間以外から見ればむしろ正義かもしれない。ただし、ここで言いたいのはそのような何でも相対化するような視点ではない。

私達が社会を形成し、そこで多くの人がなるべく幸せに生きていこうとすれば、その社会にとっての正義が社会内においては成立するし、それは別の社会を圧迫することもあろう。ただし、同じ社会内でも考え方が異なれば取るべき正義は違うし、まして別の国家であればそれが違うのはむしろ当たり前のことである。
例えば、現在日本の政治において大きな問題となっている消費税増税であるが、これも考え方が異なれば目指すべき道は当然違う。要するに、正義などは特定の利益誘導の方便でしかない。それでは正義に意味がないかと言えばそれもまた違う。正義に意味はある。それは下した決断を補強するという意味においてである。仮にそれが正しい決断だったとすれば、正義の名の下に不退転の決意で望むことは大いなる成果を上げるであろう。正しかったとすれば。。。

さて、それでは下した決断の正しさを証明する方法はあるのだろうか。実を言えばそんなものは存在しないと私は思う。もちろん、大部分の人が正しいと支持する決断もあるかもしれない。ただ、太平洋戦争に突入したことも軍部の暴走ではなく多くの国民の支持に基づいていたように、多数だからと言って判断の妥当性が担保されることなどあり得ない。
ただ、それでも民主主義社会においては決断を支持する方法は原則として多数決しか存在しない。小さな決定では一部の政治家の独断によることもあるだろうが、それが極まれば独裁社会になる。独裁であろうが、合議であろうが、多数決であろうが、下す決断は一種の賭であってどの決断が社会的に最も許容できるかという判断の結果なのだ。
それ故、民主主義においては多数の支持が必要になる。それは決断や方針の正しさを支持するのではなく、どれが受け入れられる決断なのか(あるいは決断者なのか)を決めているのだ。

ところが、正義を振りかざし始めるとそれがおかしな方向に暴走を始めてしまう。多くの場合の正義は崇高な理想に基づいている。ただ、理想が気高くともそれが取るべき正解になるとは限らない。理想は求める結果であり取るのは手段だからである。
例えば欧州のスペインでは、ギリシャに続いてデモが多発しつつある。もう随分前からそうなることは予見されていた。にもかかわらず、防ぐことができていないのは特定の正しさを追い求めているからであろう。それは財政均衡主義であったり、国家間の均衡であったりする。もちろん、その考えが決定的に間違っているわけではない。ただ、原則を押し通すと無理が生じることは少なからずある。要するにその無理が社会的に許容できるかどうか問題なのだ。
デモが起きる。それは社会的に許容できないという声ではないのだろうか。
そこでは、守るべきは住民ではなくシステムという状態になっている。もちろん社会システムの維持は重要であるのも間違いない。ただ、目指すべき理想が住民の幸せであるとすれば、一時的な我慢で済まない苦痛は果たして受け入れるべき苦痛なのだろうか。システムに時代や状況にそぐわないことがあるとすれば、それを臨機応変に変えることの方がすべきことではないだろうか。

もっとも、欧州の場合にはそれが容易ではない。多数の国が存在しているからだ。結局、システムの維持はドイツなどのユーロ内勝ち組にとっての正義でしかないということだ。
それは、ユーロ内の一部の発言力が強い国々の利益を代弁している。もちろんギリシャやスペインの苦境はその国家に原因があるのも事実であろう。ただ、それが大きな苦境に陥れば困るのは他の国々も同じである。

社会システム維持は社会を合理的に機能させるための手段である。そして、正義とは目的を達成するために必要な概念であって手段とは異なる。ところが正義は実力行使を伴うことが多いため、基本的に手段と結びつきやすい。その結果的に手段や過程が正義と勘違いされる。
そして手段を扱うのは多くの場合官僚組織であり、目的を忘れないのが政治家であるはずだ。

「さて私達は難題に対して目的を見据えるのか、手段に拘泥するのか。それが問題である。」