Alternative Issue

個人的な思考実験の、更に下書き的な場所です。 自分自身で消化し切れていないことも書いています。 組織や職業上の立場を反映したものでは一切ありません。

ものが動かず金のみが動く世界

バルチック海運指数が先週ついに700を下回った。この値はリーマンショック時の最低値を下回る。
ところが、世界の株式市場を見れば底を這うと言うよりはむしろ上昇している現実がある。ナスダックの指数は2/3に11年ぶりの高値を取ってきた。すなわち、ITバブル時代依頼の数値である。この差異はどこから来ているかと言えば、お金は動き回っているがものが動いていないと言うことである。
欧米の政府は大きくお金をばらまいた。しかし、バブルで膨らんでいた実体経済はそう容易には正常な状況に戻ることはない。その結果、余ったお金は行き場所を求めて彷徨っているというのが現状である。

世界の証券等の市場で最も大きな場所は債券市場である。すなわち、国債、地方債、社債などの市場。世界のお金の半分以上はこの分野に投入されている。次に大きな市場が株式市場であり、よく話題になる原油先物などの商品市場などは実のところ微々たる資金しか入っていない。
現在、世界の景気が良くないため商品市場にはお金が流入しがたい状況になっており(不安に基づく原油と金のみが少し違う動きをしているが)、その上で欧州の債券市場が大混乱となっておれば、行き場所を失ったお金がより安全な国債市場や株式市場を目指すのは自然な流れと言っても良い。

例えば、フェイスブックが新規株式公開を行うことが話題となっている。その金額が既に巨大企業となったグーグルの株式時価総額の半分にも及ぶ巨額であるという。グーグルが公開したときにはもっと低い金額であった。さて、フェイスブックにそこまでの将来性があると言えるのか。
また、別の部分で言えばアップルが時価総額世界最高だそうだ。確かに、アップルの快進撃はわからなくはないが、だからと言って世界で最も強い企業かと言われればそうは思わない。
何が言いたいかと言えば、アメリカは再びの株式バブルに向かい始めている。FRBバーナンキがこの状況をどのように考えているかはわからないが、グリーンスパンが不動産バブルの力を借りて景気の立て直しを図ったのと同じ手法と言えなくはない(現実にはよりアグレッシブ)。

このように株式市場を引き上げている金融緩和は、実体経済に対しても効果を上げているのも事実である。確かにアメリカの失業率はじわじわと下がり始めている。一時は10%と言われてきたそれも、8.3%と若干であるが改善の兆しが見られるのだ。
ただ、その理由はと考えてみれば巨額の金融緩和QE1とQE2の成果であると考えるのが最も妥当であろう。ただ、どんな方法であっても景気が回復するのであれば当面の間は悪いことではない。問題はそれが長続きするかどうかにかかっている。
ただし、現状が好景気なわけではない。あくまで若干改善の気配が見えるという程度であり、それが現状のナスダックの高株価の裏付けになり得るレベルではないのもまた事実であろう。それが生まれているのは金余りといううねりが故である。

アメリカの金余りは、ドルという世界通貨をもって世界中を駆け巡る。不思議なことに、景気動向は怪しいままの欧州すらユーロの値下がりにも関わらず株価は好調に推移している。
世界経済が好調でないことは、最初に触れたバルチック海運指数が未だに下がり続けていることが示している。貿易は不調なのだ。経済が上昇し始めていれば、貿易も活発になり海運運賃も上昇に転じ始めるのが普通であろう。ところが、それは下がり株価のみが上昇する。株価は未来を見通すと言われるが、それでもそれは1年も先のことではない。果たして本当に先行指標としての役割を果たしているのであろうか。

私が見る限り、現状における世界の株価上昇は世界の余剰資金が、行き場を株式市場に定めた結果だと感じている。ただ、この資金の逃げ足は速い。実態景気の裏付けがないが故に、その上昇は博打の雰囲気が漂っているのだ。バーナンキの覚悟をのみ裏打ちにして。
金融危機を経て、実体経済の裏付けを伴わない金融のみの取引が経済に大きなダメージを与えることは学習されたはずであるが、現状はその痛みの回避を同じ手法を用いて行っている。もちろんその全てが駄目だとは思わない。ただ、あくまで金融政策は実体経済を浮き上がらせるつなぎとして用いるものでなければ、あだ花を大きくしてしまうことに繋がりかねない。
一方で、日本はそのあだ花が怖くして仕方がないと逃げ回っているのが現状だろう。考えるに、日本はもっとそれから逃げずに立ち向かうこと、欧米は逆にそれに頼らず痛みを負う覚悟をすること、本当に必要なのはそれぞれ反対ではないかと思う。

「現状を変えることは非常に難しいものではあるが、その結果得られる果実は美味しいと思い込まなければ何も変わらない。」