Alternative Issue

個人的な思考実験の、更に下書き的な場所です。 自分自身で消化し切れていないことも書いています。 組織や職業上の立場を反映したものでは一切ありません。

なぜTPPはこれだけ頑強に反対されるのか?

TPP推進の一番のメリットは、海外や日本国内でチャレンジする人に新たな機会が与えられること。
もちろん、アメリカ風のシステムに新たに慣れなくてはならないし、今まで通りではなくなることである。
一方でTPPの一番のデメリットは、現状で十分と考えている人にはほとんどメリットがないこと。
農産物等が多少安くなるかもしれないが、同時に現在の雇用や賃金制度自体が大きく変わるという変動要因を与えられることでもある。お米ばかりクローズアップされるが、農産物全体で言えば安くなる額はたかだかしれている。
さて、国民のうちにアメリカまで出向いてチャレンジしようという人は何パーセントくらいいるだろうか?
おそらく1%もいまい。
言葉上で言えば、今まで以上に、頑張る人・チャレンジする人が成功する社会に移行するわけでもある。
ただし、それは社会の底上げによって生じるのではなく、今を変えたくない人の損失に依存している。
そして、成功者の利益と今のスタイルを変えずに損失を受ける人たちの損は釣り合わない。
日本国民の損は大部分がアメリカ企業の利益に変わり、アメリカに出向いた成功者の利益はアメリカ国民の損失から得るのだから。
さて、現状ではアメリカ企業と日本企業のどちらが多く相手国から利益を得ているのか?
それは当然日本である。だから日本他対米黒字を積み重ねている。ちなみに言えば、黒字を得てもそれが日本に環流しているわけではない。基本的にアメリカに再投資されているので、帳簿上では日本の黒字であっても実際のお金は貸し付けとしてアメリカ国内(あるいは他の国)に流れている。
日本がこれだけ対外資産を有していると言うのに、日本人が少しも豊かさを感じられない理由でもある。
TPPはおそらく日本が得ていた黒字をアメリカが取り返すであろう仕組みである。
問題は、アメリカで生産してアメリカで売る日本企業の得た資金は再度アメリカ内を環流し、日本でアメリカ企業が得るであろうサービスの対価はそのままアメリカに持ち帰られるのだ。
もちろん同じことが日本企業にも言えるので、日本企業がアメリカでサービス業を営めばその利益は日本に持ち帰られるであろう。ただ、当面そんな準備が為されているわけではない。その状況ができるまでは日本が負ける。
ちなみに、政府や自治体調達などであってもアメリカ企業参入の非関税障壁として、英語による記載が要求されるかもしれない。これはまだ確定した事項ではないので必ずそうなるとは言い切れないが、よく考えてみれば英語を使う国がTPPにはいくつか存在する。
でも、参加国に日本語での記載はされることなどあり得ないであろう。要するに、この非関税障壁撤廃は非対称で行われる危険性が高い。

池田信夫氏は輸入品目が安くなれば、日本の消費者のメリットになると主張する(http://ikedanobuo.livedoor.biz/archives/51751984.html)が、それは一定の収入を維持できる消費者のメリットにはなるものの、収入を失ったものの損失の大きさを正しく評価していない。まず関税収入が無視されているがそれは国を通じて国民に還元される。これを無視して考えれば関税をかけないときの方がトータルのメリットが大きくなるのは当然である。
また、輸入量が増えるということは対外的な支払いが増えると言うことでもある。極論すれば全てのものが1/10の価格で輸入できるとすれば、その方が消費者にとって有利なので全て輸入に頼った方がよいと言うのだろうか?そんなはずはあるまい。輸出をしなければ貿易赤字でいつかは支払いができなくなる。アメリカのようにドルをばらまけるのであればともかく、そんな状況には日本はない。

そもそも、推進論者は現状のままでは日本経済はじり貧であって頑張れば何とかなる方に賭けようと言い、反対論者はじり貧ではない、あるいはそんな賭のために現状の幸せを奪って良いのかと言う点にある。
私は、現状のTPPに乗るという賭が結果的に日本を豊かにはしないであろうと考えるからこそ、現状のTPP参加論議には否定的である。
今の状況を見る限り、GDPが一向に上昇しない理由を国内政策の改善ではどうしようもないと考えてのTPP賛成である。だから、彼らは外圧を用いて日本の既得権益を壊すのだと言っている。もちろん、日本国内の既得権益は解体されなければならない点が多々あると私も思う。しかし、その解体方法に一定の目算が無しで進めて良いのかについては、推進論者達は語らない。あるいは、日本の富の総体が減るのではないかという疑問にも答えていない。
仮に彼らが語る日本経済じり貧論が真実だったとして、TPPに加入したときに日本が失う富とどちらが大きいのか、それについては答えていない。
例えば、内閣府が10年で2.7兆円のメリットがあると言っている。しかし、その中身がどうなっているかはよくわからない。というのも、関税の撤廃分については考慮していると思うのだが、非関税障壁の撤廃によるデメリットは考慮されていないと思うからである。なぜなら、その点についてはまだ何もわかっていない。日本政府は様々な内容について議論にすらなっていないと言うが、それが嘘だというのが徐々に現れてきているし、あるいは日本が知らされていないだけだという可能性も全く否定できる状況にはない。
私は、非関税障壁の解除が日本の受けるデメリットの最大の部分だと思っている。関税の撤廃は実を言えば大きな問題ではない。

推進論者は、関税の撤廃は日本にメリットがあると言っている。それは一面で事実であろう。
反対論者は、関税の撤廃も食糧安保条問題があるとしており、それもおそらく真実である。
その上で、反対論者は非関税障壁の撤廃問題こそが日本の受ける最大限のデメリットだと感じている。
ただ、その実態がほとんどわからないのが正直なところである。
推進論者は、だからこそ日本がリードして交渉を有利に運ぶべきだと言っているが、日本が今参加すると手を挙げても交渉に参加できるまで半年もかかり、実際には交渉にすら参加できないかもしれないとすでにリークされた。
一度交渉に参加すれば抜けられないという話は、アメリカからも玄葉外務大臣からも出ているし、おそらくそれが正しいであろう。
だとすれば、大きな罠のあるであろうことが予測される協定に内容もわからないままに飛び込もうとしているのである。そしてわからない内容を「TPPおばけ」などと揶揄しながらである。

さて、一部のチャレンジぶるな人たちがそれでもTPPにより成功を得られる可能性があるのは事実だ。
問題は、国家の幸せとは国民総体の生活水準の底上げであると私は思う。
TPPはおそらくそれとは逆の制度であろう。海外にチャレンジを国際人だとすれば、国際人であればあるほど努力すれば成功する。しかし、真面目に努力しながらも海外までチャレンジしない人たちは成功しない。
別に、不真面目に生活していなくてもである。
これが国家の目指すべき方向性なのだろうか?
確かに韓国は大きくそちらに舵を切っている。なぜなら韓国は大いなる貿易国家だからだ。
貿易依存度はGDP比で40%近くある。対して日本は10%強である。同じ道を進まなければならないと決まっているはずもない。

すなわち、大多数の日本に住み日本で生きたいと考えている人たちが不利益を被り、海外に打って出ようとする人や企業がチャンスを掴む。ちょっと待って欲しい。アメリカ企業は日本から利益を得るのであろう。だとすれば、なぜ日本企業は日本からまず利益を得られないのだ?
まだ、多くの国民はTPPのなんたるかを詳しくは知らないと思う。
マスコミは、「食糧が安くなる」、「日本はTPPに参加しなければ生き残れない」などとしか報じないのであるから。
でも、問題点に気づいた人の反対の声を上げ始めた。
日本で生きていけばワリを喰らう(もちろん国内でも既得権益打破でメリットを受ける人もいる)というのは、基本的に不合理ではないか。ちなみに、日本人が既得権益だと考えているものより遙かに多くのものがTPPにより既得権益として壊されると私は思う。要するに、既得権益と日本人が思っていないであろうレベルまで壊されてしまう。
推進論者はそんなことはないと言っているが、その言葉にどんな信用をおけるであろうか。「ない」という根拠を示すことなどあり得ないし、そもそも彼らがそれを言い切れない理由を知っている。なぜなら推進論者でさえ行き先を全く知らないし、その行き先は日本抜きで決定しつつあるのだ。

おそらく、そのことを日本国民の多くが知れば反対論はもっともっと大きくなると私は思う。
野田政権は。いや推進派の中心である前原政調会長はそういう意識が出る前に決めてしまおうとしているのではないだろうか。

もちろん、日本の変革は必要であろう。そのこと自体は私も同感である。
実は最近、日本の価値を最も軽んじているのがTPPの推進論者ではないかと個人的には感じている。
私はもっと日本の価値は高いと思うし、その価値は日本人自身の手でもっと高められると思う。

ちなみに、TPPを保護貿易(ブロック化)の一種としてそのグループに入るべきだという議論もある。
私も日本にメリットのあるそれができるなら、全く考慮しないわけではない。
ただ、日本の繁栄のために必要なのはブロック化ではなく自由化である。
日本こそ、ブロック化を推進すべきではない立場にいると思うのだがどうだろうか?

(文章を書いた後で見付けた参考動画)
 1/3【経済討論】亡国最終兵器 TPPの真実[桜H23/11/5] http://www.youtube.com/watch?v=buBpYJO3Vro
 2/3【経済討論】亡国最終兵器 TPPの真実[桜H23/11/5] http://www.youtube.com/watch?v=KNOHHipRgPc
 3/3【経済討論】亡国最終兵器 TPPの真実[桜H23/11/5]  http://www.youtube.com/watch?v=P_nP3eCiZl8

「日本の変革は過去確かに外圧によって進められてきた。でも、そろそろそれを打ち破るべき時に来てはいないだろうか。」