Alternative Issue

個人的な思考実験の、更に下書き的な場所です。 自分自身で消化し切れていないことも書いています。 組織や職業上の立場を反映したものでは一切ありません。

日本の負い目

TPPや米韓FTAの狂騒を見ていると、現時点でアメリカの歓心を買うことがいかに政治的に価値を認められているのかと言うことがよくわかる。
TPP賛成論者は、TPPによって日本が利益を受けると言うが、具体的にどの分野でどの程度利益を享受するかを説明しない。ただ、自由貿易は日本にとって益があるという観念論のみ説き続ける。反対論者の言うことも、確かに想定されるデメリットの全てが実現するわけではないと言う意味において多少の誇張はあるかもしれないが、全体としては非常に論理的である。
鈴木宣弘:TPPをめぐる議論の間違い ── 推進派の俗論を排す:http://www.the-journal.jp/contents/newsspiral/2011/10/tpp_tpp.html

日本にとってもっとメリットがあるのは、アメリカも中国も無茶を言わない形でのアジアの成長力を統合することである。もちろん、日本は何度も企ててアメリカにより潰されてきた。その経緯を無視して今回のTPPが多国間自由貿易協定の全てであるような言い方をするのは、正直ナンセンスかつ悪質である。

ただ、それでもアメリカと組まなければならないと政府が考える理由は一体何なのだろう。
行き着く疑念はそこである。
なぜアメリカに利益供与をするのか。TPPでの交渉は、言い方は悪いがアメリカの総取りをどこまで思いとどまって貰うかの交渉になる。それも交渉と言えば交渉であろうが、日本にとってのメリットは大きくない。そもそも専守防衛の日本ならではと言えるのは笑うべき点であろうか?攻撃する気概がないではないか。
だからと言って、中国と組むべきなのかと二極論を展開するのももう一つ理解できない。
もちろんこれまでの国際外交交渉で、日本が主体性を維持し続けられず翻弄されてきた事実は消し去れるものではない。
それでも、新たな選択肢を自ら作り上げるほどの気概がなければ、仮にTPPに参加するとしても同じように何もできずに終わってしまう。仮に、TPPにおいて十分な交渉ができるほどの力があれば、同様にTPP以外の枠組みを用いる可能性もあるのではないだろうか。

などと、いろいろと考えを巡らせても結果的には日本や韓国がアメリカの歓心を買わなければならない理由は明快である。一面においてはそれは軍事的な依存であろう。
あるいは軍事的な力ではなく、経済的な戦争を仕掛けられると考えている面があるのかもしれない。
あまり陰謀論を語っても仕方がないが、ある程度の脅しくらいはあってもおかしくないと思う。

あるいはTPP賛成派は、日本の既得権益を打破する、硬直化したシステムを打破するためにこの機会を利用すると言う。その面を否定するつもりはない。現状の体制は大きく崩されるだろう。ただし、それが日本人の望む形で行われると考えるのは虫が良すぎると思う。制度を大きく崩した時点でアメリカが美味しいところをさらっていこうとするのは間違いない。それを逆手にとって、日本が強くなる状況を作れる目処など立っているのであろうか?
農業は、現状の体制を大きく変えるだろう。ただし、アメリカ企業の傘下でという可能性も十分にある。

現状の打破は必要だと私も強く感じる。
でも、壊してから考えるではなく、壊し方を考えておかなければならない。
果たして、今すぐのTPP参加においてそんな議論はされているのか?
全く為されていない。農業について言えば、さらに守るべき論議のみが行われているのが現状である。
今回は、国内問題としての業界の創造的破壊ではない。世界的に弱れば奪われる中での破壊なのである。
金融危機の時期に、外資のハゲタカにより大手の銀行が二束三文で買いたたかれたのは記憶に新しい。
「危機をチャンスに」とは言っても、準備も無しにチャンスなど引き寄せられようもないのである。

それにも関わらず交渉参加を急ぐのは、ひとえにアメリカの歓心を買いたいという、いわゆる政府・あるいは民主党の個別的な理由が大きく感じられる。それは、日本の国益を先に見ているわけではない。

あと、TPP自体が本当に成功するかについては個人的には疑問を持ってもいる。
それは、アメリカ自身がTPPのシステムを国内的に認めさせることができないのではないかという理由である。
日本も大きく崩されるかもしれないが、アメリカも日本企業の参入を受ける。いや、日本だけではない。オーストラリアやニュージーランド、あるいはシンガポールなどの英語圏諸国の方がメリットは大きいだろう。
果たして、アメリカ国内世論を認めさせることができるのか?
実を言えば、オバマ大統領の最大の敵は日本でも何でもなくアメリカ国内世論であろう。

交渉において、本当に負い目があったとしてもそれを最初から見せて交渉してもメリットなどあろうはずもない。
負い目がないフリをして最大限の譲歩を引き出すのが交渉である。
現状、TPPに懐疑的な理由は最後にはそこに行き着く。
元々、不利な条件での交渉であり難しい交渉なのだが、それを切り抜けるための準備も方策を持ち合わせているようには見えないことなのだ。それが感じられるのであれば、もう少し国内改革のために役立てようという気にもなるのだが。

「負い目は感じるからこそ存在する。感じなければ感じさせられるまでは存在しない。」