Alternative Issue

個人的な思考実験の、更に下書き的な場所です。 自分自身で消化し切れていないことも書いています。 組織や職業上の立場を反映したものでは一切ありません。

本来投資は社会成長の一部しか得られない

現在の金融危機がそう容易に収束しないと私は考えている。
別に危機感を煽るつもりはないが、なぜそう考えているかについて少し書いてみたい。

バブルは、これまでも何度も発生してきた。
日本もとびきり大きなそれを経験し、未だにそのトラウマから抜け出せ切れていない。
今回の金融危機も発端は一種のバブルがきっかけである。
サブプライムローンに端を発するリーマンショック、それと似た構造のユーロにおける不動産バブルの崩壊。
さらには、先進国の不景気から移動した資金によるBRICSを頂点とする発展途上国への投資バブル。
成長の流れがあるうちはもちろん問題など表面化しないし、中国のようにいつまでも発展し続けるといった論調さえ一部には存在する。

しかし、私は現在の状況は大きすぎる投資マネーが招いた状況ではないかと感じている。
それはレバレッジによりもたらされたものだ。世界中に電子取引上存在する投資資金はレバレッジ分を含めて3京円もあるとも言われている(大前研一氏によれば2008年段階で6000兆円と言っている:http://www.ohmae.biz/koblog/viewpoint/1154.php)。その正確に金額については明確な根拠は見付けられないのだが、とんでも無い量の資金が利益を求めて世界中を駆け巡っているのは誰もが知っているであろう。
ここ数年、実は世界のお金持ちが資産を貴金属や絵画などに移し替える動きが激しい。そのため、世界のオークションでは最高値が続出している。なぜそんなことが生じているか。資産をお金や金融商品よりも安全なものに移し替えているのである。

ところで、投資資金が利益を上げるとしてそれはどこから得るのであろうか?
投資資金とは、資本主義における資本と同じであって、その資本により事業を行いその利益が資本に対するリターンとして環流する。だから、投資資金の利益は世界の生産(またはサービス)により得られる利益を超えることはできない。ただ、その先食いは取引帳簿上は可能である。
実体経済として存在する資金がいくらかについても、世界全体では明確なものはないと思われるが日本について考えてみよう。日本国内で市中流通しているお金は約80兆円と言われている。GDPは約500兆円(名目で479兆円)である。これが2010年のIMFのレポートでは世界の約8.7%を占めるということなので、500兆円から割り戻せば世界のGDPは約5750兆円と言うことになる。
このうち利益がいくらになるのかはわからないが、ものすごくおおざっぱな議論として概算してみよう。
仮に5%の利益がいろいろな場所で生まれるとすれば、約290兆円が利益として得られるということになる。
さて、世界中で6000兆円のお金が投資されていると考えよう(ここではレバレッジを無視)。世界中の年間の利益が290兆円としてその30%が投資資金に対するリターンだったとして87兆円、利益率は約1.5%ということになる。

さて、今の投資でリターンが1.5%で満足されているであろうか?
年金資金でさえ4%ほどのリターンを想定しているはずである。ヘッジファンドなどは5〜10%近いリターンを標榜しているところもある。いや、ブラジルの政策金利は12%である。
仮に5%のリターンを考えれば300兆円の利益がなければならないことになる。
実際には投資の全てが成功するわけでもないが、仮に半分が成功するとしても150兆円の利益が必要だ。
計算上はどうも得られる利益には届かない。
だとすれば、現実にはもっと投資効率が低いのか(上述の計算によれば1/4であれば計算上釣り合う。すなわち投資資金の25%しか5%の利益を得られない。)、あるいは実は現状利益を得ているものの利子のみ受け取っているが、元本が毀損しているという可能性がある。
そして、後者の可能性が高いからこそ現在の金融危機が発生している。
ギリシャ国債のデフォルト問題も、ヨーロッパの金融機関の資本不足も、中国の不良債権問題も全ては投資金額が過大になりすぎていることが理由である。
いや、過剰な投資マネーは投機マネーと呼ぶべきであろう。

そしてその損をカバーするために、現状は各国政府がもっと資金を投入している。もちろん現時点でお金をばらまくしかないのは事実である。ただ、それは状況をパッチワーク的に繕っているに過ぎない。要するに、お金を実体経済にばらまいて収益を水増ししようとしているのだ。
でも、その先にある結果は不良債権の噴出によるクラッシュ(金融恐慌)か、もしくはお金をばらまきすぎた結果生じるインフレしかないのだ。もちろん同じ危機であればインフレの方がマシではあると私は考える。その時に、かさ上げしすぎている投機マネーを実体経済に合わせて縮小させることが前提条件ではあるが。

今の危機は、生産活動などの実体経済ではなくまた、投資でも実態の投資そのものではなくペーパー上の投機によるあまりに巨大なマネーが動く状態を作ってしまった結果として訪れたものではないだろうか。
その上で、投資が実利の積み重ねの上に存在するのではなく、目論見上の利益の上に存在している点が問題なのだ。
仮に私の推論が正しいとすれば、現状の投資体制を変えない限り状況の先送りに過ぎないことになる。
拡大を拡大でカバーすれば行き着く先はバブルしか無く、その後のクラッシュしか見えない。

だから、現在の金融危機はまだ続くと思っている。
現体制は全力でその先送りを進めるであろうが、根本的な解決策にはならない。
特に、アメリカとイギリスが金融立国をしている限りにおいて投資マネーが減少するとは思えない。
安定した世界に戻るためには、実体経済に見合ったレベルまで投機を縮小することであろう。
そもそもバブルはあだ花なのだから。

「働かざる者喰うべからず。投資は本来社会の潤滑油として存在する。潤滑油は本体を超えることなどあり得ない。」