Alternative Issue

個人的な思考実験の、更に下書き的な場所です。 自分自身で消化し切れていないことも書いています。 組織や職業上の立場を反映したものでは一切ありません。

トリガーエボラ

 エボラ出血熱の拡大が収まる気配を見せない。WHOはほぼ毎週感染者数と死亡者数を報告しているが、実数はその2倍から4倍になるのではないかと予測されている(http://sankei.jp.msn.com/world/news/140829/erp14082900110001-n1.htm)。9/16時点で5000人を超える感染者(http://sbabzy.com/ebola-death-toll-rises-beyond-2500-5000-cases/)と2500人近い死亡者数がカウントされているので、WHOの情報を信じるとして概算ではあるが1〜2万人が感染していることになる(死亡者数も最大では既に1万人に達しているかもしれない)。特に状況が厳しいのは現在感染が広がっている西アフリカ3国のうちでも、対策が講じられずほとんど野放しになっているリベリアであろう。国内の多くの病院は機能麻痺しており(http://sankei.jp.msn.com/world/news/140810/mds14081010400002-n1.htm)、多くの場所で治療も隔離も行われていない。すなわち、正確な感染者数や死亡者数を算出することが極めて難しい状態になっていると言って良い。
 現在感染が広がっている西アフリカ3国(ギニアリベリアシエラレオネ)に加えて、アフリカ最大の人口を誇るナイジェリアでの感染拡大が最も懸念されている。ナイジェリアの首都であるラゴスは世界中との交易拠点であり、そこからエボラ出血熱潜伏期間中の患者が世界に広がることが恐れられている。

 先進国の動きもも感染を恐れて今ひとつ腰が及んでいる(もちろんそんな状況下でも最善を尽くされている多くの医療関係者もいる)。ようやくアメリカが軍を派遣するようだが、これも前線ではなく地元の担当者育成にかける模様のようだ(http://www.news24.jp/articles/2014/09/16/10259258.html)。それでもこれによりかなりの物資が持ち込まれるのは悪い話ではないが、既に動きが遅すぎると考えている人も少なからずいる。
 現状では特にスラムでの感染拡大が懸念されており、一部では航空機による広がりを考えれば数十万〜数百万人の死亡者に達するのではないかとの予測も出始めている。すなわち、エピデミック(地域的流行)からパンデミック(世界的流行)への広がりを想像させる。現時点ではかろうじて地域的流行に抑え込めているが、一定数以上の患者が発生した場合には堰を切るように患者が世界に広がるのではないかという懸念である。
 これまでも何度もエボラ出血熱の流行があったものの、局所的なもので抑え込まれてきた。別に大規模な作戦で封じ込めたわけではなく、自然に収束してくれていたと言っても良い。それが今回のような問題になっている理由として、これまでのエボラウイルスの株とは異なり潜伏期間の長期化および、空気感染(正確には飛沫核感染)あるいは大気中でも容易に死なないと言った可能性も様々な場所で議論され始めている。致死率についてはまだ明確なことは言えないが、概ね60〜80%ではないかとされているようだ。
 以前の流行のように患者数が少ない内には医療関係者の大量投入により状況を安定させることもできなくはないが、現状のように患者数が一定以上に増えた場合にもっとも確実に取り得る手段は封鎖である。これは、現在感染していない人までもその危険に追いやるという意味で非人道的な行為と受け取られることもあろうが、アウトブレイクを超えてエピデミックが更に広がりつつある状況を考えると一定の説得力を持つ手段でもある。

 とは言え、現状の複雑で多様な旅客網を全て閉鎖することは容易に叶うものでもない。今月末までに欧州へ到達する確率は25%、アメリカへの到達も18%と予測する記事もある(http://www.xinhuaxia.jp/social/46795 )。以前にも書いたが、先進国でも同時多発的な患者の広がりがなければ対応できるであろうし、現状も試薬の検証を進んでおり時間が経てばワクチンの開発もできるかも知れない。
 一部で煽られているほど過度に日本における生活環境への影響を悲観的に捉える必要はないと私は思うが、それも一定以上の貿易の停滞を余儀なくされるのは間違いない。現状では、アフリカを中心とした貿易の混乱に留まっているが、感染が世界に広がればもっと大幅な混乱が生じるであろう。もちろん、単発的なモノではなくある程度の地域的流行が世界中で発生した後のことを考えての話である。
 現状でも、西アフリカ3国では交流の停止(あるいは地域封鎖)が一部地域の食糧事情を急激に悪化させて、潜在的な暴動発生の下地が生まれ始めている。最も重要なのは食糧の移送問題であろう。そして、経済の停滞は現在かなりバブル気味になっている世界の株価にも間違いなく負の影響を与えるだろう。仮に先進諸国では大きな広がりを見せなかったとしても、貿易の停滞は経済の停滞へと必ず結びつく。

 戦争の理由の大部分は、国民が食べられなくなること(あるいはその大いなる懸念)に基づいている。そんな未来は考えたくないが、世界交易の縮小はそれを広げる危険性が極めて高い。仮に量的にはカバーできても、危険性を考えれば輸送料金の増額も出るだろう。
 単純に一部地域の貿易に停滞が生じるということだけではなく、そのコスト増やモノが流れなくなることによる不安や暴動が生じれば社会は間違いなく不安定化する。暴動鎮圧のための国内向けの武力であっても、行使し始めるとそれまでのタガが外れてしまうことも懸念材料になる。
 これらのことは、それが生じるかどうかではなく生じるのではないかという懸念が高まるほどに、世界中の投資に対するマインドを冷やすことになるだろう。そして現物物資に資金が向かい、原油や食料の高騰をさらに加速させる。

 別に不安を煽りたい訳ではない。現代の緻密に組み立てられた経済は、想定できるる問題に対する柔軟性をかなり保有しているが、想定を超える事態に対してはむしろ過激に反応しがちである。エボラウイルスの広がりは、想定外の事態に対するトリガーとなる可能性を十分に秘めているのではないだろうか。
 兎にも角にも、早期に対抗する薬やワクチンの開発が急がれる。