Alternative Issue

個人的な思考実験の、更に下書き的な場所です。 自分自身で消化し切れていないことも書いています。 組織や職業上の立場を反映したものでは一切ありません。

偏りを拡大によって隠す

先日、日銀はFRBの積極的な動きに刺激されたかついに重い腰を上げて一段の金融緩和を進めることとなった。株式市場は素直にそれを反映して上昇している。
私は、現状において日本は金融緩和をすべきだと思っている。ただ、それは常に必要だと考えているわけではなく、現時点の世界情勢を睨んだときに対処として必要だと考えているに過ぎない。世界との歩調を合わせないと、その差が日本にデメリットとして降りかかりかねないからである。
喩えるならば、日本が法定速度で走る車だとしよう。他の国々は速度超過をして日本のまわりを走っている。日本の取っている立場は規則上間違いではない。ただ、周辺国との速度差があるが故に日本との間に歪みが生じており、それが日本を危険な状態においているのだ。

上記の喩えで言えば、日本は絶対的には正しくても相対的に柔軟性のない態度を取っていることになる。原理主義を貫けば自己満足は得られるであろうが、残念ながらこの道路に警察はやってこない。速度超過をしている国々が、それにより誰かに裁かれるわけではないのである。
もちろん、速度を上げているが故に個別の危険性は増している。しかし、日本は速度を上げなくても世界とのバランスの問題で別の意味の危険性を抱え込んでいる。それが、円高となって日本経済に降りかかっている。円高の全てが悪ではない。現状で円安になれば、輸出は増えて企業は元気を取り戻すであろうが、逆に輸入品価格が上昇して国民生活は平均的に少し悪化する。
現状は、一部の企業が苦境に陥り局部的にリストラらが進行している。リストラや就職難で一部の人が多大な苦難を受け、それに関係しない人たちはこれまで通りどころか円高・デフレのメリットを教授しているという状況だと言える。
円安になれば、現状苦しんでいる輸出系企業の業績が多少回復するため、おそらく雇用が増える。ただし、輸入品価格の上昇は等しく全国民に降りかかる。国民全体で苦痛を分け合うというのであれば、実を言えばこちらの方がより公平だと言える。

国内にマネーをばらまくことは円安に誘導するという意味で、国民の雇用不バランスを多少解消するが、マネーの行き場所が偏っていればそれ以上の効果は期待できない。現実に、日銀がお金をばらまいてもそれは銀行などの一部の金融機関に移動する。そこから国民に上手くお金が広がっていく構図については誰も保証していないし、そのための絵図もない。そこが重要なのは間違いなく、もっとも日本の景気に上手く作用するのはマスコミが喧伝する悪名高き公共事業である。
私は、日本国民が景気の良さを認識できるのは中小企業の親父が羽振りが良くなるような状況だと思っている。それは一種バブリーな状況ではあるが、大企業が儲けようが金融機関が大きなお金を動かそうが国民生活はおそらく豊かにはならないであろう。
だとすれば、日銀の緩和は景気回復の第一歩ではあってもその先がなければあまり意味はない。そしてその先を担えるのは政府支出である。

ところで、日本はこれまでの日銀の抑制的な態度もあって金融緩和が効果を発揮する状況にある。この刺激を使って一時的に景気を向上させ、その効果がある内に様々な改革などを進める必要がある。ただし、世界はそれを既に先食いしてしまっている。要するに景気の悪化とは、富の偏りが大きくなることだと考えている。世の中には多くのお金が出回っているのだが、それが一部に偏ること。その結果多くの国民が保持するお金が少しずつ減る。それが問題なのだろう。
さて、世界はその不足分をもっと大きなばらまきによってカバーしようとしている。いや、私もそれにより今の日本の停滞感を払拭すべしと言っている。ただ、その行き着く先は確かにあまり芳しいものではない。おそらくその先にあるのはインフレに至るその前に巨大な経済の振れ幅の拡大を経験するのではないかと思うのだ。
具体的には、特定のものの値段や株価などが乱高下する状況である。既に現在でもその傾向はかなり見えているが、おそらくそのレベルではないもっと大きな振幅が来るのではないだろうか。そして、大きな振幅は世界を混乱に陥れかねない危険性を秘めている。

富の偏りをお金をばらまくことによりカバーしようとすることは即効性があり、確かに効果がある手法である。その危険性ばかりに着目して腰が引けてしまうことはあまりにお粗末だ。ただ、そこにどっぷりつかってしまうと抜け出ることが容易でない状況を作り出すのも間違いないであろう。
今、世界は確実にその方向に進んでいると思う。
注意しておきたいものだ。

「覆い隠しても,正されたわけではない。」