Alternative Issue

個人的な思考実験の、更に下書き的な場所です。 自分自身で消化し切れていないことも書いています。 組織や職業上の立場を反映したものでは一切ありません。

守られたいという感情が悪用されて欲しくない

福島原発事故の収拾は未だ明確にはなっていないものの、あまりマスコミが取り上げなくなったと言うことは着実に冷温停止に近づいているという状況ではないかと思う。関係諸氏の努力には頭が下がるし、感謝の念に堪えない。

ところで、福島原発事故による人的被害に関しては未だに論争が続いている。
放射線医は、今回の事故により受けた低放射線量は人体にほとんど影響がないというスタンスを取る人が多いように感じている。一方で、それを危険だと主張する人もいるものの、その場合であっても妊婦や子供が危険だと言っている場合が大部分であって、全ての人がすべからく危険だという主張はそれほど目立たない。

だとすれば、実のところ意見の違いなど些細なことではないかと私は感じている。
異なるのは、アプローチのみである。
前提条件が、安全側からアプローチするか、危険側からアプローチするかという違いなのだろう。

まず、原則として影響はない。ただし、子供や妊婦は影響を受ける可能性もあるので注意が必要。
あるいは、影響が出るかもしれない。特に、子供や妊婦は感受性も高く気をつけなければならない。
言葉による印象は大きく異なれど、実質的には微妙な違いの表現が異なっているだけであろう。

放射線の影響を評価する場合には、チェルノブイリ事故の結果が参照される。
ところが、その評価も未だに二分されている。
事故を大きく扱いたい人たちと、事故を小さく扱いたい人たちの論争である。
死亡者についても、数百人から数十万人まで異なる。
私は専門家ではないので断言はできないが、数千人は影響を受けて亡くなったかもしれないが、数十万人は言い過ぎだろう。ただ、今後その影響が出てくるという可能性は否定できない。遺伝子異常が数十年後に癌化を引き起こすという話もある。ただ、現時点での事実で言えばまだそれは顕在化していないと感じている。
甲状腺癌が出ているのも事実だが、それも甲状腺癌が原因で死亡した子供の数は死者が15人で98%は完治しているという。

だから、将来への不安。。。これが、最も大きな原発の影響を畏れる理由である。
それは言い換えれば未知なるものへの恐怖なのだろう。
その恐怖は、実を言えば誰も払拭することなどできない。
大丈夫だと言えば、その言葉が信じられない。
危険だと煽られれば、ますます不安が増幅する。
でも、真実がどこにあるかなど、実のところ誰にもわかりはしない。

だから、誰も答えを持たないという恐怖が社会に大きな影を落とす。
その恐怖を歴史的にぬぐい去ってきたのは宗教である。
かつての天災も、『未知なる』自然の脅威であった。
誰もが解決できない恐怖は、人ではないものに安心感を求めさせるのだ。
何かにすがって守られたいという感情と言えるだろう。

あるいは、その原因となった原発の徹底的な拒絶である。
天変地異は拒絶できないが、原発なら拒絶できる。
原発が感情論であるのはそこに原因がある。
その時に出てくるフレーズは「いのちを守る」である。
では、現時点で福島事故による放射線で人命被害は出たのか?
出ていない。
直後に多くの放射線を受けた作業員は、致命的な状況に陥ったのか?
寡聞にしてそうなったことも聞かない。日常生活に復帰したはずだが、その後はマスコミに身体機能の低下は報道されているであろうか?
もちろん、将来的に影響が出る可能性がないとは言わない。
チェルノブイリでも、事故収拾の作業員についてはそういうことは少なからず発生している。
命の危機にまでは至らなくても、無気力症や心身の不調などは多く報告されている。
ただ、逆に離れた場所に住む住民には子供の甲状腺癌以外の明確な被害は報告されていない。
・・・いや、信憑に値するそれは見あたらない。


本当のところを言えば、放射線リスクを徹底的に検証した上で判断されるべきことだと私は思う。
現状、どこまで危険なのかが正直言ってわからない。
だから、現状では安全側に行動するのはある意味正しい。
それ故に、安全基準の安易な引き下げには私は反対である。
しかし、初期の安全側の行動の次に行うのは状況のできる限り正確な検証である。
そこには、感情論など必要ない。

多くの国民が不安感を持てば、それに乗じて跋扈する輩が増える。
私はあなたの不安がわかりますよと。
個人としてはそのような反応も仕方ないかもしれない。
守られたいのだ。不安を解消して欲しいのだ。
解消できるような代償行動をしたいのである。

私は、この不安感に乗じて新興宗教や変な業者・思想家が社会不安を煽ることを最も危惧する。
それは、彼らの利益のための行動であるからだ。
ある意味マスコミもその一員であることが腹立たしくもある。

「情報にはそれによって益を得る誰かの思惑が隠されている。それを知らぬふりしてもっとも利用しているのはもちろんマスコミである。」