Alternative Issue

個人的な思考実験の、更に下書き的な場所です。 自分自身で消化し切れていないことも書いています。 組織や職業上の立場を反映したものでは一切ありません。

WBCとTPPの類似性

私は、少し前に前菅総理はあっさりと辞めるのではなく、脱原発ではなくてTPP解散をするのではないかと疑っていた。結果的にはそれは無かったわけではあるが、今後TPPの問題は様々な場面で議論されることになる。
早速、9/12の経団連会長との会談で野田総理もTPPについて触れている。
同じ内容にも関わらず、朝日新聞産経新聞の報道の仕方が全く異なるのが、奇妙だがおもしろい。

首相、TPP参加に慎重姿勢 経団連会長との会談で(sankeiMSN)
http://sankei.jp.msn.com/economy/news/110912/fnc11091212200008-n1.htm

席上、米倉会長は環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)参加問題について「10月のアジア太平洋経済協力会議(APEC)が重要なタイミングだ」と述べ、日本の早期参加を促したが、野田首相は「バランスをとって考えたい」と述べるにとどめ、慎重姿勢を示した。

野田首相「TPP進めないといけない」 経団連会長に(asahi.com
http://www.asahi.com/politics/update/0912/TKY201109120083.html

米倉会長がTPPのほか、東南アジア諸国連合ASEAN)や欧州連合(EU)との経済協定の交渉促進を求めたのに対し、首相は「米国側はTPPを非常に強調しているので、TPPも同時に進めないといけない」と語ったという。

雰囲気から言えば、野田総理は積極的に進めるとまでは言及していないようだ。
しかしながら早急に方向性を決めることについては明確にしている。

ところで、あくまで私の感じたイメージであり概観ではあるが、
(TPP賛成派)
・マスコミ
経団連
(TPP反対派)
・農業団体
・医師会など
といった様相を示しているように思っている。

政治家も、どちらかと言えば上記反対組に関係する族議員を除けば、あまり反対の声が大きいわけではない。
ただ、反対派は徹底的に反対であってその声が無視できない状況であろうが、こういう関係は他の問題でも同様だろう。特定団体に関連する議員がその団体の不利益になることに対して徹底的に反対するのはある意味当然である。

ところで、マスコミなどで報道される賛成派の主張はおおよそこんな感じであろうか。
・TPPという環太平洋での自由貿易協定の議論には、早期から参加して日本に有利な方向に誘導しなければならない。
・関税自由化は、日本の輸出に大きな意味がある。
・競争こそが日本企業を強くしてきたので、どんどんと競争できる状態にする必要がある。
・農業などを新しい形に変える機会である。

一方の反対派の主張は、こんな感じで報道されていると思う。
・TPP参加は日本の農業を完全に破壊する。

この報道内容だけでは、どちらが正しいか?と問われればなかなか難しいが、TPP参加も仕方ないではないかと思えてしまう。まあ、マスコミが賛成派だと考えている所以でもある。ただ、私はTPPは日本にとって必ずしも望ましいものではないと考えている。

TPPは日本にとってマイナスなのが農業分野のみではない。
おそらく、医療・法律・金融・その他政府調達などの部門のほぼ全てで、日本にとっては不利な状況が想定できる。推進派の人は、日本も攻めることができるではないかと言われるが、自由化を推進すると言うことは現状の日本なりに安定した業界の体制を、アメリカなどの自由競争に変えてしまうと言うことに近い。
まさか、TPPに参加することが病院の診療料金自由化や、アメリカの弁護士の日本進出などの垣根を下げることまで考えている人はどの程度いるのだろうか?
それでも、日本企業が国際的な競争力をつけて海外で勝てればいいと言う人がいる。
今、アメリカのこうしたサービス企業は既に国際競争力を有している。日本の企業はそれを有していない。
TPPは原則例外無き自由化である。だとすれば、参加すれば日本企業が淘汰されるのは明かではないのか?

ああいえばこういうで、だから日本に有利にするために早期に交渉に入るべきであるとの意見がある。
原則は「完全なる自由化」である。しかも、アメリカが元々無かった金融やサービスという項目を、TPPにねじ込んだという事実がある。
だとすれば、アメリカが狙うのは日本のそれら分野ではないか。
交渉の余地などあるのだろうか?

経団連などは、FTAを進めている韓国などに対抗するためにTPP参加が絶対必要だという。
しかし、ではなぜ韓国はTPPに参加しないのか?
なぜ、中国はTPPに参加しないのか?
今後この両国がTPPに参加するのか?
実を言えば、この議論は全く為されていない。
FTAは個別の二国間協議であって、様々な例外事項をお互いに決めることができる。
私から見れば、韓国は自国の輸出のためにはやや不利な条項まで飲んでいるとさえ思えるが、それは別にしても日本もFTAによる協議は当然可能である。

では、なぜ日本とアメリカはFTAを行わないのであろうか?
要するに、アメリカは日本とのFTAよりもTPPの方が有利なのである。
TPP参加国のGDPを考えると、概ねその2/3はアメリカ、1/4が日本、そして残りがオーストラリア他の参加国である。アメリカがTPPでメリットを受けるためには日本市場を席巻する他はない。

では、日本はその最大のアメリカ市場でどれだけのメリットを受けるのか?
すでにアメリカに輸出する日本の工業製品の関税率は低いものが多い。
自動車などは確か5%程度の関税率である。
TPPに参加すればこの5%は有利に働く。これで中国や韓国と貿易的に対等になるのか?
為替による影響は5%などを遙かに凌駕している。円とウォンの価値はリーマンショック前と比べれば、ウォンは半減している。すなわち、韓国は為替差益によって半額での輸出ができる。
さて、5%の関税が免除されればそれでOKなのか?
そして、日本の農業だけでなく多くの産業は、自力で生き残れなくなる。
もちろん、こんな不利な状況下で生き残る企業もいるだろう。アメリカに打ち勝つ企業もあるだろう。
でも、一部が勝てばいいのだろうか?日本社会を大きく変えることが望みなのだろうか?

要するに、現状においてTPP参加は日本にとって必ずしもメリットがある話ではない。
むしろ過度な負荷をかける施策である。
では、それにも関わらず推進する理由は何か?
それは日本の過去の成功体験ではないかと思う。
戦後の焼け野原からの復興、あるいはオイルショックなどからの立ち直り。
現状の停滞した経済状況を打ち破るには、新たな責め苦が必要なのだという精神論のように私には見える。

さて、話は変わるがWBCワールドベースボールクラシック)の開催について、日米間でも揉めている。
日本は過去2回連続での優勝を手にしている。アメリカのMLBが全然本気でないなどの理由もあろうが、それでも事実は事実として誇って良いだろう。
今揉めているのは収益配分の方法である。現状では収益の2/3はアメリカが得ることになっている。残りの1/3を他の参加国で分け合えと言うのだ。私が見ても不平等な取り決めだと思う。スポンサーとしては日本や韓国なども多大な資金を出している。それをアメリカががめようと言う仕組みである。
仮に、日本が不参加となってもWBCは開催するとしている。しかし、本音のところでは日本の参加がなければ形ばかりの成立はあっても、アメリカにとってのメリットはないだろう。
最後の秘策としてはMLBに所属している日本人のみを日本代表として参加させるという裏技までMLB側は考えているようだが、これも選手が拒否すれば成り立たないであろうし、日本側がそれを日本代表と認めなければあまり意味はない。

この構図、TPPと似ている感じがする。
WBCもTPPも、日本が参加しなければそれは形骸化する。
しかし、日本の参加はアメリカのメリットのために用意されたものである。
交渉は可能であろうが、交渉したからと言って日本としてどこまで有利に持ち込めるかは曖昧だ。
なぜなら、アメリカ以外の国々も日本のスポンサードの恩恵に与るからである。

こう考えると非常に辛いことがある。
日本の繁栄は、世界の平和と繁栄が必須である。
TPPなどはある種、経済圏の囲い込みであってブロック化経済の一種と言っても良い。
そのブロックとしては、環太平洋は望ましいブロックだし、そこにライバルである韓国や中国が参加していないというのもメリットがある。
だから、大きな目で見ればTPP参加にはそれなりの理由はある。
ただ、それは完全な自由化ではなく個別交渉できる場であるという前提が必要だ。
あるいは関税自主権を有しているという、国家の主権が必要である。
それがない完全な自由化は、ユーロ導入によりもはや崩れかけているユーロ圏の状況を見ているようで、やはり怖いと感じる。

「現在の日本にとって、おそらくTPPは虎穴である。入らなければ虎児は得られないが、入るための準備はまだ全く整っていない。」