Alternative Issue

個人的な思考実験の、更に下書き的な場所です。 自分自身で消化し切れていないことも書いています。 組織や職業上の立場を反映したものでは一切ありません。

中国はなぜ戦狼外交に走るのか

 中国政府である中国共産党は、「戦狼外交(戦狼外交 - Wikipedia)」と呼ばれる外交スタイルを拡大している。インドとは深刻な国境紛争を繰り広げ、インド政府が民意に後押しされる形で許容する全面的な中国製品ボイコットが広がっている(中国ボイコットに突き進むインドの危うさ | 公益社団法人 日本経済研究センター:Japan Center for Economic Research)。これは韓国がNO JAPAN運動を行いながら日本製品に依存している状況に近いかもしれないが、アメリカが進める中国とのデカップリングを考えると、経済的な痛みは伴うものの一つの決断とも取れる。

 インドとの軋轢の前には、南シナ海問題での対ベトナム、対フィリピンの衝突もあった上で、その後にはオーストラリアとの様々な衝突(WEB特集 広がる「中国警戒論」オーストラリアで何が?支局長が解説 | 国際特集 | NHKニュース)も繰り広げている。台湾との関係についても香港問題を背景に民主党が大勝し、中国の影響が大きく後退する形になっている。更には、一つの中国に関しアメリカが徐々にその状況を改変しつつあり、実質的に台湾を守るための様々な布石を打っている(習近平も慌てふためく…激怒したアメリカが、台湾を本気で支援し始めた(現代ビジネス) - Yahoo!ニュース)。

 一時期はアメリカへの感情的な反発もあり、中国の札束外交にすり寄っていた欧州ですら、徐々にではあるが中国との距離を置き始めた。一帯一路に参加していたイタリアですらファーウェイ排除に乗り出し(イタリア政府、ファーウェイと国内通信企業との5G機器供給契約を阻止 | ワールド | 最新記事 | ニューズウィーク日本版 オフィシャルサイト)、蜜月と伝えられたドイツ(メルケル独裁16年間のつけ、中国がこけたらドイツもこけるのか?(大原 浩) | 現代ビジネス | 講談社(1/5))ですらも態度を硬化させ始めている(中国がドイツのライバル、パートナーから変化 - WSJ)。特に、これまでドイツが目をつぶってきた人権問題(ドイツ政財界が「中国の独裁政治」を問題視しない残念な理由(川口 マーン 惠美) | 現代ビジネス | 講談社(1/4))での反発が広がり始めているようだ(ドイツ政府と人権問題 - ドイツ生活情報満載!ドイツニュースダイジェスト)。

 日本に対して、現在口頭では秋波を送っている状況(世界的孤立進む中国が韓国などに秋波、日本はどう対応すべきか | 今週のキーワード 真壁昭夫 | ダイヤモンド・オンライン)だが、実質的には尖閣周辺(尖閣周辺に中国船 48日連続 - 産経ニュース)や大和堆における侵入(能登沖に中国漁船急増 北朝鮮公船も、日本は操業自粛:時事ドットコム)などにより、口頭での外交はほとんど意味をなしていない。アメリカを中心とした政府レベルでの対中国網は遅まきながら徐々に進行していると見てよい。ただ、民間企業がその足並みを揃えていないのは日本の弱点であり、経済界に配慮して強力に政府が推進できていないことも今後に禍根を残す可能性は高い。もちろん、それを後押ししているのは親中派の議員である。

 

 このように日本やアメリカだけでなく、欧州もまだ中国の影響を容易に排除できるような状況ではない(【米中デカップリングはあり得ない!?】 : 飯田香織ブログ 担々麺とアジサイとちょっと経済)が、アメリカが進め日本が絵図を描く中国包囲網と経済切り離しは、少しずつではあるが確実に進行している。アメリカでは人権問題について、共和党よりも民主党の方が強硬であるとされる。また、議会の態度は反中国で固まっており、バイデンよりもトランプの方が中国に優しいという声もある。トランプはビジネスマンであり同時にエンターテイナーであるためパフォーマンスを優先し、その上で戦争状況を導くことを恐れているという考えには同意したい。トランプは在任中に最も戦争をしていないアメリカ大統領である(米国人は戦争に興味のないトランプを選んだ - 園田耕司|論座 - 朝日新聞社の言論サイト)。ただ、様々な報道を見ていると中国はバイデン当選を望んでいるようにも見える。これは、トランプ個人の問題よりはトランプのパフォーマンスが最終的に反中国の世界的な同盟につながるという危機感からではないか。バイデンの方が強硬に見えて、直接的にはソフトに対応するため時間稼ぎができるというのもあろう。更にこれは憶測にすぎないが、息子の醜聞を材料に脅しをかけられるという側面はありそうだ。

 

 さて、遅まきながらも本題に入ろう。中国は世界的に見ても大きな影響力を獲得し、十分な経済力も得た。むしろ、世界に対して恫喝をかけるようなことをしない方がより好意的に迎えられるのは、子供でも分かりそうな話である。表明している種々の統計数値が仮に嘘であったとしても、それを超えて余りある実力を中国は既に身につけた。ところが、現実には中国は世界中との軋轢を広げる方向に舵を切っている。

 その理由として、三つほど上げてみたい。まず最初には、中国の文化とし強者は弱者に対して攻撃的に出ることを許容する傾向があることを指摘したい。これは文化圏が似ている韓国においても同様の傾向がみられるが、強くなったからこそ強硬に対処するというものである。かつての韜光養晦韜光養晦 - Wikipedia)戦術は、中国の力が十分ではないからこそやむを得ず用いてきたもので、その我慢が中国人のプライドをずっと傷つけてきたという認識を持っているのではないか。

 しかし一定の力を得た現在ではこれ以上欧米の下につくことに我慢ができず、その仮面を取り払い始めた。仮にこの推測が正しいとすれば、今後も中国がどれだけ甘言を弄しようが中国の高圧的な態度は変わらないだろう。だからこそ、中国中心の社会を許容すべきではないと私が考える理由でもある。ただ、中国国内でも態度を豹変するのが早すぎるという意見はあるだろう。ただ、その意見も方向性は変わらず単にスピード調整をしようという違いに過ぎない。そうなる理由は次に続く。

 

 第二に、中国国内を抑えられないという危機感ではないかと思う。例えば、インドとの国境紛争もそうだし、世界各国で軋轢を生んでいる不法漁業や乱獲もそうだが、中国人民の飽くなき欲求を抑えられないというものである。前者は人民解放軍を抑えられないことによるもので、彼らの欲求を少しずつ満たしながら政策を進めなければならないことから、他国との軋轢を許容せざるを得ないというものである。「中国の夢(中国の夢 - Wikipedia)」というスローガンを打ち出している以上、国民を満足させ続けなければならない。だが、同時に中所得国の罠(中所得国の罠 - Wikipedia)に既に陥ったと考えられるため、これ以上の順調な経済成長を実現することは難しい。だからこそ、外部に敵を作ることで世論を操作する戦略である。名部を統制しながら、外部に敵を作る。チベットウイグルだけでなく、内モンゴルなどの統制(中国人に同化されゆく内モンゴルの問題は内政問題にあらず | 楊海英 | コラム | ニューズウィーク日本版 オフィシャルサイト)にも動くのは、巨大国家を維持し続けなければならないという強迫観念によるものでもある。中国がいくつかの地域に分解すれば、今のような国際的な影響力を維持できないのは間違いない。そのきっかけが香港であり、ウイグルであり、内モンゴルとなることを恐れていると考えるのが素直なところである。この傾向も、同じ路線を進む限り先鋭化していくことになる。

 素直に考えれば、中国の経済状況がここから再び改善する可能性はほとんどない。更に中国の拡大路線を抑制すべくアメリカは動いており、残念ながら中国自身の攻撃的な外交によりアメリカの戦略は世界的な広がりを見せている。だから、現在のような方向性がいつまで維持できるかはわからない。要するに袋小路に追い込まれたようなものである。共産党体制を維持しようとすれば、結局は世界と対立せざるを得ないのである。人民の不満を強権的であれ抑えつつ、人民の夢を理由に暴走機関車のように拡大路線を走るしかない。

 

 第三に、習近平の自己保身である。中国国内の権力闘争は様々な識者が分析しているが、かなり熾烈なものである。それを力でねじ伏せてきて今の地位を築いたとすれば、外交で弱い姿を見せるわけにはいかない。現在中国の体制は民主化とは逆の方向を指向している。これはアメリカが想定してきた状態と明らかに異なっているため、現在の米中対立が発生するに至った。結局、中国と言う巨大国家を維持するためには強権的であることが必須なのだ。そして、この状態を命題として規定してしまったため、習近平には選択の余地が無くなってしまっている。少しでも後ろに下がれば、自分の地位や場合によっては生命の危機まで及ぶことになる。権力闘争の結果とは言えど、自縄自縛の状況に陥っている。かつて中国が持っていた柔軟さやしたたかさは、習近平が自らに課した命題により捨て去られている。だからこそ、国際的にも後には引けない。少なくとも中国が舐められたという評価を受けるわけにはいかないのである。

 私は中国が生き延びるためには、連邦国家として分裂しながら協力する形態が最もふさわしいと考えてきた。しかし、それはもはや不可能な状況に陥りつつある。様々な経済バブルの崩壊と同じように、場当たり的な自己保身の対応策を経ることにより、バブルは制御不可能になっていき、最終的には何らかの形で破裂する。この状況は習近平による中国の夢バブルと呼ぶべきではないかと思う。