Alternative Issue

個人的な思考実験の、更に下書き的な場所です。 自分自身で消化し切れていないことも書いています。 組織や職業上の立場を反映したものでは一切ありません。

官僚は無能か

 クルーズ船における感染拡大を受けて、厚生労働省に対する否定的な意見がかなり大きく巻き起こっている(クルーズ船内隔離は失敗、乗客の米国人医師語る - WSJ)。強引に乗り込み下船された神戸大学の岩田教授からの告発は、CNNなど(CNN.co.jp : ダイヤモンド・プリンセスからの下船始まる、船内の状況に専門家が警鐘)が報じたが、一方で官僚の方からはできることに限界があるとの匿名による反論も出ている(若手の役人@霞ヶ関 on Twitter: "霞ヶ関の官僚は無能だって度々批判される。無能な場合も多々あるでしょうね。でも本当にギリギリの体制でやっているんです。外から出向で来た人で『こんな人数でこれだけのことやってるとは微塵にも思わなかった。』と言う人も多いです。単に無能批判する前に、なぜできないのか考えてほしいところ。")ようだ。

 

 この問題に関する素人にすぎない私の見解だが、厚生労働省の動きが不十分だという意見はその通りだと思う面もあるが、最大の原因は大臣を含めた政治家にある。官僚のつぶやきにもあるように、通常時の官僚は少ない人数で非常に多くの業務を抱えている。民間の方が忙しいなどの意見を見るが、霞が関の実情を知っていればとてもではないがそんな軽口を叩けるほどではない激務の場所が多い。

 もちろん公務員には多種多様な職場あり、時には非常に楽そうに見えるところもあるかもしれない。だが、それが全ての官僚の状況を代弁しているわけではない。ちなみに私も元官僚ではあるが、月に200時間オーバーの残業が頻繁にあった(ちなみに、ごくわずかしか残業手当は出ない)。夜中の2時に、朝までなんて資料要求があることも珍しくはない。それが正しい働き方だとは思わないが、そうしなければ回らない世界でもある。

 

 地震等の災害対応に関しては、組織として相互扶助できる仕組みがかなり出来上がってきているが、今回のような突発的な事案に対しては政治家が主導して官僚が動ける状況を作り出す必要がある。官僚は、法律や自らの役割を自分自身で変えることはできないのだ(むしろ、官僚の暴走をさえるためにさせてはいけない)。今回も、大臣が大規模に特命チームを作るように指示して人員確保を図ることもできただろう。そういう式を行うのが行政のトップに立つ政治家の役割である。

 政治家にこそ責任があることは、当初より指摘してきた。最も大きいのは、状況の的確な把握ができていなかったこと、官僚の指示を広報する役割になってしまっていたこと、加えて私の想像だがオリンピックや中国との関係を過剰に念頭に置いたこと。

 

 次に、告発した岩田教授の行動についてだが、正直に言えば非常に迷惑な行為であると私は思う。確かに行き届かない点は数多くあるだろうが、実際に対応している人たちはその点も十分理解しているだろう。ただ、様々な制約がありその中で最適を見つけるべく努力されていると思う。だが、それを第三者がいきなり入って悪い点を指摘する。専門家であれば誰でもできることだが、そのワンマンプレーが今後の連絡調整を複雑にし、身動きを取れなくする危険性が高い。

 厚生労働省の情報開示が不十分で、問題があることについても何度か触れてきたが、だからと言ってこの暴露により各機関の信頼により成り立っている関係を壊してしまったとすれば、おそらく今後の活動が難しくなってしまう。個人的な義憤をわからなくはないが、正式なルートでメンバーに入れなかったことが全てを言い表しているのではないか。功名心が勝ちすぎているように思う。

 ネット上で言われているほど、こんな状況で謀略や複雑な隠ぺいを企てるような余裕はない。

 

 では、官僚は有能かと問われれば、これも明確に答えるのはまた難しい。私のつたない経験からくるイメージでは、おおよそ30~40%ほどは非常に有能である(追記:そのうち敵わないなと感じる人も10~20%いる)。この比率に関しては、民間などでもそんなに変わらないのではないか。

 逆に、頭は良いが無能だと感じる人も少ないなりには存在する。他の組織にいけば有能に変わるのかもしれないが、そういう人もいる。これも漠然としたイメージではあるが、10~20%ほどは存在するだろう(それも民間でも似たようなものではないか)。

 もう一つ、官僚が社会において無能だと言われるのは、彼らには分析能力はあるが、企画立案能力に欠ける点である。実際の利益を得るような行為(商売)を行わない職業だからこそ、情報取集能力は高くバランス感覚もあるが、嗅覚はあまりないし、トレーニングする機会もない。それを元々持っている人たちは、政治家や起業家に転身していく。

 

 逆に言えば、今のようにバッシングされるのは社会がそれだけ官僚組織に期待しているということでもあるのではないかと感じたりもする。だが、官僚主導は一時マスコミなどを中心に否定され、政治主導に変わってきた経緯があるはずだ。問題がないわけではないが、それを過剰に叩くことに対しては私は否定的である。官僚は、多くの人の意見を集めてバランスよく対応する能力にはたけている。

 今の状況は、それをできる範囲でを行ってきた結果である。危険性の認識不足や、広報に関する不十分さは感じるものの、今クルーズ船対応で官僚を叩くことについては、私は無意味でむしろ害悪だと思う。問題があったなら、後日適切に処分すればよい。