都市封鎖の効果

　中国は４特別市（北京、天津、上海、重慶）も限定的な都市封鎖を実施した（北京も上海も都市機能が停止、市外から戻ると「自宅待機１４日間」 : 国際 : ニュース : 読売新聞オンライン）。完全な都市封鎖ではないが、中国共産党政府の形振り構わない感染拡大封じ込めの意志を感じさせる出来事である。これは経済活動を犠牲にしても、新型コロナウイルス問題を解決するという方針なのだ。

　中国政府の発表ではあるが、感染拡大地域における都市封鎖の効果は間違いなく出ていると考えて良いだろう。感染者数の増加が、若干ではあるが落ち着きを見せ始めたのはその現れと見る。確かに発表されている数字は信用出来ないし、早期収束を図りたい中国政府の思惑も理解している。だが、隔離政策は感染症対策の基本であり、取り組むのが遅れたとは言え意味がない訳でないことがはっきりした。

　だが、これで感染抑制に道筋が出来たと考えるのは早計ではないか。感染者数の増加が回復者数を下回り始めて（正確には基本再生数が１を切って）、ようやく感染拡大は収束に向かう。それを確認出来るまではあまり楽観的になってはいけない。加えて、湖北省における致死率がじりじりと上昇を始めている（10日程前に2%強だったモノが3%を超えた）。重症患者が徐々にではあるが死に至っているということを示す。罹患したからと言って直ぐに死に至る訳ではないが、放置すれば何週間かして状況が悪化し、さらに時間をかけて死に至る。少し前に、重傷者数の増加が感染者数よりも重要だと書いたが、その数は政府発表の数ではあるが日によりかなりのばらつきがある（100～1000人程度）。だが、全体の感染者数が40000人として、7000人以上が重症と認定されており、公式の数字でも確率は15%を超えている。医療崩壊していなければもう少し低くなると思うが、武漢以外の湖北省の都市における致死率が上昇しているのが気になるところだ。覆い隠せなくなっていると考えた方がよいのかも知れない。加えて、高齢者や持病を持つ人のみの問題ではないことも明らかになっている。

　一方で、感染力の問題については日本のクルーズ船における事態が的確にしてしている。要するに、感染力はかなり高い。わずか１週間ほどの間に100名を超える感染者を生み出した（正確にはもう少し前から広がっていた）。更には、十分な対策を行っていたはずの検疫官までは罹患した（クルーズ船 新たに39人と検疫官１人感染確認 入院者４人重症 | NHKニュース）となると、防疫は容易ではないと考えた方がよい。また、重症者が現時点で４名出ているとすると、重症者発生率は3%に至る。中国の状況ほどではないが、特別の要因（高齢、免疫低下、持病）や時間をかけると症状が悪化することが見て取れる。

　また、ウイルスの空気中における生存時間についても、かなり長いのではないかという情報（ウイルスの生存期間は？変異が生じているか？専門家が回答―中国 | ニコニコニュース）も出始めた。ノロウイルスと同程度かどうかまではわからないが、この状況はなかなかに厳しい。致死率はやはりインフルエンザよりも高いと考えた方が良さそうである。仮に1%であってもインフルエンザの10倍の人が死に至るのだから。

　最も大きな問題は、日本においては中国の様な都市封鎖という手段が使えないことである。封鎖するためには、非常事態宣言でも行わなければならないが、それは相当に感染が蔓延しなければ発せられまい。だから、どこかの隔離施設に押し込む（病院船を含む）ことになる。その心構えと準備が出来ているとは思えない。「広がらないと良いなあ」程度の甘い考えでは厳しいのではないか。

　何度も繰り返して書いていることではあるが、最初の罹患時の症状は恐れるほどものではない。だから、パニックを起こす必要はない。ただ、患者数が大きく増加する時点がどこかでやってくることは考えておかなければならない。その時点で、有効な対処法（ワクチンや薬）があれば良いのだが、その開発のためには時間が掛かる。それを考えると先延ばし策は非常に重要である。そのためにも、中国からの旅行客を止めることには大きな意味がある。時間稼ぎが出来るのである。

　また、この時期になってオリンピックを理由とした緩和策には理がない。今ですら通常通りの開催はほぼ難しくなったと考えるべきである。中国政府の早期終了宣言を出したい思惑と、日本のオリンピックを通常通り開催したい思惑が妙にはまると、非常に厄介だと考えている。どちらも状況を楽観視したがるインセンティブが働いてしまうのだから。

　本当にオリンピックを開催したいのであれば、それこそ今は中国との人の交流を最大限抑制すべきである。さらには、感染の可能性がある人たちを隔離するための施設や場所を至急準備し、強権的であると叩かれようが断行する姿勢がなければ難しいだろう。現状の対策は非常に中途半端である。もっとも実際には、それでも開催はかなり微妙だと思うが。