Alternative Issue

個人的な思考実験の、更に下書き的な場所です。 自分自身で消化し切れていないことも書いています。 組織や職業上の立場を反映したものでは一切ありません。

抗体依存性感染増強(ADE)とサイトカインストーム

 新型コロナウイルスが話題になり始めた当初、中国からの被害状況を示す動画でいくつかの特徴的な事例があった。それは、普通に立っていた人が突然「バタン」と倒れるものである。ネットを検索すれば今でも容易に見ることができる(YouTube)。もちろん、これらの全てが新型コロナウイルスと関係しているのかどうかは不明だが、伝えられているコロナウイルスの症状(肺炎:発熱、咳)と少々異なるように感じられるのが気になっている。

 サイトカインストーム(サイトカイン放出症候群 - Wikipedia)という言葉がある。私の意訳なので厳密ではないが、ざっくりと言えば何らかの物質をトリガーとして生じる免疫活動の暴走により発生する劇的な症状の悪化を示す。高熱、や疲労、吐き気などが生じ、多臓器不全に至ることもあるという。スズメバチなどで2度目に刺された場合に生じるといわれているアナフィラキシーショックアナフィラキシー - Wikipedia)とは似てるが異なる反応とされる。

 

 サイトカイン(サイトカイン - Wikipedia)ストームは、鳥インフルエンザエボラ出血熱などでも発生するとされており、これにより急激な死亡率の上昇があるとされる。今回の新型コロナウイルスでは、現時点ではその強烈な発生を肯定するほどの情報は出てきていない(新型コロナウイルス感染者の症例報告 | AASJホームページ)が、何かをトリガーとして発生する可能性もある(コロナウイルスの「国内感染」はもはや免れない | コロナウイルスの恐怖 | 東洋経済オンライン | 経済ニュースの新基準)。一方で、デング熱デング熱 - Wikipedia)では二度目の感染により重症化することが報告されている。まだ完全に解明されていないようだが、抗体依存性感染増強(ADE)による劇症化の報告(https://www.medience.co.jp/forum/pdf/2010_03.pdf)がなされている。こちらは、型の異なる同種のウイルスに感染することで発生する劇症化のメカニズムである。

 過去最悪のパンデミックの一つとされるスペイン風邪スペインかぜ - Wikipedia)では、健康な若者に多くの死者が出たとされるが、その原因はこのサイトカインストームであったのではないかという仮説が高い信ぴょう性を持っているようだ。サイトカインの増加はおそらくどんな病気でも観測されるのだろうが、問題はその量が異常なレベルに増加するかどうか。あるいはどのような条件によりそれが発生するか。動画に表れているようなケースが、サイトカインストームあるいはADEによる劇症化でないことを祈りたい。仮に、ADEによる劇症化だとすれば2種類以上の型のコロナウイルスが広がっていることになる。それが既存の風邪のようなものなのか、あるいは今回2種類以上の新型ウイルスが出ているのか。いずれもまだ何の確証もないことなので、あくまで可能性の一つとして考えてほしい。

 

 このように考えた理由は以下による。2月1日時点での公式に発表されている(实时更新:新型肺炎疫情最新动态)死者数は259人、そのうち武漢市では192人とされる。ちなみに重体患者が1795人いるとされる。今回の震源地である武漢市の死亡率は確定患者数が3215人で単純計算で6%ほどだが、中国全体では2.2%程度と大きく異なる(2月1日10時の時点で総患者数が11791人、疑似患者数が17988人とされている)。湖北省で見ると7153人の患者に対して249人の死亡(死亡率は3.5%)、湖北省以外を見ると4638人の確定患者に対して10名の死亡者なので死亡率は0.2%と極端に低下する。

 こうした差異は、感染拡大時期による差(医療機関等の対応や情報認知の差)と考えることもできるが、繰り返し感染することで劇症化する可能性を否定できていない(新型肺炎、治癒後も再感染リスク 中国専門家:時事ドットコム)。また、武漢での話だが重症化率が10~25%という情報がある(「新型コロナウイルス肺炎 ~SARS 新型インフルエンザなどから学ぶ~」(視点・論点) | 視点・論点 | 解説アーカイブス | NHK 解説委員室)。日本でも既に17人を超える罹患者がおり、同じ確率で発生するとすれば数名の重症者が出ていてもおかしくない。これもまだ経過時間が短いという問題があり、今後日本でも重症患者が出てくる可能性を否定できないが、漠然とした感覚ではあるが少々引っかかる。

 別の入院患者に対する調査では、おおよそ11%の死亡率であったという報道が出ている(持病ある高齢男性、感染率高い 武漢の入院患者99人―新型肺炎:時事ドットコム)。入院患者の1/3近くは重症化し、そのうちのおおよそ半数が死亡に至っているという情報もある(症状、予防、経過と治療… 新型コロナウイルス感染症とは? 現時点で分かっていること(忽那賢志) - 個人 - Yahoo!ニュース)。数字上ではあるが入院患者の15%が死亡している計算になる。

 

 この軽い症状と重い症状の差はいったい何なのか。どこから来るのか。両者のギャップがどうしても私の頭の中ではつながらない。入院患者の多くが既往症がある高齢者であり、免疫抵抗力が低い人の方が重症化するという説明(新型コロナウイルス死亡例の現病歴まとめ | Doctor's cafe)には一定の理解はできるにもかかわらず。現時点で私の妄想に過ぎないのだが、複数回の罹患、あるいは何らかのトリガーにより重症化率が増加する可能性を気に留めていたい。

 ただ、何度も書いているように現時点では少なくとも中国以外では死者は出ていないし、重症者の話もない(二次感染、三次感染の話は出ている)。だからいたずらに危険視する必要はない。感情論で振り回す国境封鎖などは、実質的効果がそれほど高くないと思う。これだけ世界がつながった時代、仮に封鎖しても必ずどこから忍び込む。一度入ればいくら封鎖していても同じ。それは2009年の新型インフルエンザ騒動の時に過剰なほどの機内検査まで行ったのに、国内に入ってきた事実が明らかに示している。現在日本国内で最も猛威を振るっているインフルエンザは、季節性インフルエンザと再定義された当時の新型インフルエンザ(都内のインフルエンザ 「流行注意報」|東京都)である。つまり、封じ込めたのではなく定着したのだ。

 新型コロナについてもワクチンが生み出され治療法が確定すれば、今後は季節流行病として定着する可能性がある。ただ、現在は効果的なワクチン等がない状況だから、まずは感染拡大をいかに防ぐかが重要であり、そのための施策を推し進めている。感情に支配されて慌てたり過剰に恐れたとしても、なにもメリットはないのだから。ただ、一方で正常性バイアス正常性バイアス - Wikipedia)にとらわれてしまうことも同様に危険である。冷静にかつ事実に基づき客観的に判断することが需要だ。危険性が高まる可能性についても、並行して考えておくことには意味がある。

 

 現在中国から出てくる数字(患者数、死亡者数)は、正確ではないだろう。あくまで勘ではあるが、数倍から10倍程度の罹患者や死者がいてもおかしくはないと考える(<新型肺炎>感染確認されていない死者たち=香港メディア)。これはわざと不正確な数字を出しているというよりは、マンパワーが不足して正確な数字を確認できないという可能性が高い。推測で曖昧な数字を出して、下手にパニックを引き起こさないようにという配慮が含まれていることもあろう。

 ただ、公表されている数字を見ている限り現時点では収束はしていない。また、武漢以外での都市での拡大はまだこれからが本番と考えてよいと思う。春節の延期が政府方針として行われ、地方政府によっては更なる延期が取り決められている(中国の地方政府が連休延長-上海や重慶2月10日、湖北省14日まで - Bloomberg)。しかし、いつかは必ず人がまた大移動が復活する。そこで再度の感染拡大は避けられない。

 また、別の懸念としては人の近くにいるペットにも感染する可能性がある(発症するとは限らない)。これを媒体として人-人ではない感染拡大の可能性も気に留めておいた方が良いだろう。兎にも角にも、私たちが現状最も注視しておく必要があるのは、中国国内での感染拡大である。加えて中心地である湖北省における死亡率の変化。それが高まるようなら警戒が必要だ。今後日本でも感染がある程度広がるのは回避不能である。ただ、それを如何に抑え込むかを考える上で中国の先進事例は良い指標になるのだから。