Alternative Issue

個人的な思考実験の、更に下書き的な場所です。 自分自身で消化し切れていないことも書いています。 組織や職業上の立場を反映したものでは一切ありません。

利用したくなる人になる

 上手く人との繋がりを作り、それを発展させられる人がいる。一方で、十分に能力を持っており、それを使って人脈を構築しようとしても広がらない人もいる。自分で考える能力ほど評価されなかったり、能力的に劣ると思う人が賞賛されてたり。この差は性格によるといえばそれまでだが、それ以上に自分自身に対する考え方の差異がある様な気がしている。

 

 基本的に人は社会という環境の中で、人間同士の結びつきにより立場を作り、関係性を深めていく。個人でどれだけ努力しても、応援・協力してくれる人がいなければ、成功には結びつかないことが多い。もちろん十分図抜けた才能を見せつけることで、周囲が喜んでサポートしてくれるケースもあるだろうが、そうしたものは一部の天才にしか許されてはいない。また、仮に潜在的な天才であっても、世の中に見出されないままに埋もれていく人もきっと多いだろう。

 

 一人で自分の将来を切り開く。こう言えば格好良いが、実際には多くの人との関わりの中で成功に結びついていくのが普通である。関わった人たちの寄与を個別に考えると深くないかも知れないが、それらが積み重なることで道筋が出来ていく。

 私たちは、自分の評価は他人にゆだねるべきではない。こういう考え方には私も一面で間違いなく賛同する。だが、それは他者を排除すべきと言うことを意味しているのではなく、他者の言動に惑わされないという決意を表す内容である。

 

 人は社会の中で生きている。それ故に、人は人を利用する。その言葉のみに着目すれば余りよい印象は抱かないかも知れないが、利用のし合いこそが人の連関を生み出す重要なファクターだと思うのだ。だからこそ人を利用するという主体的な面も必要だが、それ以上に他者から利用したいと思わせることの方がもっと重要なのだ。

 例えば、私は若い時にある雑誌編集者に、様々な人への紹介をいただいた。当時、私はさしたる人脈も持っておらず、その時に頂戴した人脈が今にも生きているという意味で、その編集者の方には深く感謝している。さて、彼はなぜ私をいろいろな人に紹介したのか。性格として、そう言うことが好きだったという側面はあるだろう。だが、それと同時にそのマッチングが彼にとってメリットのあることであったためではないかと考える。

 

 自分の能力に自信を持つことは重要である。それがポジティブな情動を自分に与えてくれるから。だが、同時に自分の能力を相対化して「なるべく」客観的に見ることもまた重要である。独りよがりな評価に意味はほとんどない。そして、他者に私たちを利用したいと思わせることが、自分の能力を磨くのと同じほど大切なことであると考えている。孤高の人には近づきたくないし、自分の能力をひけらかす人にも同様であろう。だが、人のために動き、協調性を感じる人なら一緒にやってみたい、あるいは誰かに紹介したいと思わないだろうか。その行為は紹介する側にもメリットがあるということである。

 

 ここで言っているのは、都合の良い人間になれと言う意味ではない。唯諾々と他者の言うことを聞くのではなく、こんな面白い人間だからこそを他者に紹介したいと思われることである。全ての人が決定的に社交的な訳ではない。初対面の人と容易にうち解けられない人も少なくないだろう。だが、仲介者がいればその障壁は著しく低くなる。私たちは自分の人脈を広げるために、自らが行動しなくとも人の紹介という形で連関を広げることができる。

 飛び抜けた才能を持つことはその一つ、そして最大の方法である。だが、仮に飛び抜けていなくとも、他者に紹介するメリットがあると思わせれば、どこか普通より抜けた部分があると、あるいは面白い発想が出来るとか、凄く真面目であるとか、木訥で在ることが好ましいとか、その内容には制限はない。

 

 だが、私たちは無意識のうちに他人に利用されることを忌避している可能性がある。そんな側面が見えると、生理的に拒否をしてしまうケースも少なくないだろう。それは他者が得るメリットにばかり目が行き、自分に跳ね返ってくるリターンにまで気付いていないのではないかと思うのだ。「自分が、自分が」という部分に目が行きすぎて、直接的に利益に飛びつこうとする。だが、他者から見ればお互い様の部分が見えないために、それこそ拒否感が働いてしまう。社会の中の出来事だから、それを持って全てのことを拒絶する訳ではないが、人脈構築や信用の側面で大きく不利になる。

 もちろん、自己主張しなければ取り上げられない世界は間違いなくある。コンペティションにチャレンジし、社会的な発信を行い、自分を売り込まなければ有名にもなれないし、自分の主張を聞いてもらうことすら出来ない。だから、今回私が言っているのは「口コミ」マーケティングに関するものである。

 

 Win-Winという言葉が一時もてはやされたが、先に与えるか、後に与えるかの違い。まずは先に他者にメリットを与えること。自分が利益に預かろうとせっつくほどに、その果実は逃げていってしまう。

 なめ合いの様なコミュニケーションが多いこの時代ではあるが、押しつけにならない範囲で興味深い発信するものが多い人ほどこうした恩恵に恵まれていく。他者にはない自分だけのものを探す。たったそれだけのこと。だが、何より難しいこと。

 結果を期待せずに、自分が信じる道を行くことがそれに該当するかも知れない。最初に書いたことだが、自分を信じることは何よりも重要である。それで自慢したり、プライドをこじらせたりと言うことではない。ただ、他者との違いを分かりやすい形で見せること。そしてそれを利用したいと思わせること。結果としては自分も利用することになるが、まずは与えること。

 

 最終的には才能と努力が何より重要で、その結果として社会的な評価や地位に結びついていく。だが、その過程において他者が別の他者にあなた自身を紹介するメリットを感じさせることが出来れば、それは一つ多きなアドバンテージになるだろう。