Alternative Issue

個人的な思考実験の、更に下書き的な場所です。 自分自身で消化し切れていないことも書いています。 組織や職業上の立場を反映したものでは一切ありません。

混乱の時代にようこそ

 米中貿易戦争は数日前に書いた通り、妥協と強硬を繰り返しながら(トランプ米大統領、中国と通商協議継続 「当面の合意ない」 - ロイタートランプ大統領:9月の米中協議、キャンセルになっても「構わない」 - Bloomberg)も、最終的にはお互いに引けないラインを見出していく。アメリカの株価はトランプ大統領をはじめとした政府高官たちの口先介入(トランプ氏、1%利下げ要求 FRBは米経済に「手錠」 - ロイター)によりなんとか崩壊を抑えているが、先行きは不透明なままであり、世界を見渡せばリセッションの声がちらほらと聞こえ始めた。世界中で利下げが行われ(豪中銀、追加利下げの用意あるとあらためて表明-四半期報告 - Bloomberg)、あるいは検討され始めている。要するに、世界経済はそろそろ下り坂に向かいつつある。それを証明するかのように、ホルムズ海峡での火種があるにもかかわらず、原油価格は暴落とはいかないまでも低迷(原油と金、高まる逆相関 米中摩擦の深刻さ映す :日本経済新聞)している。

 

 こうした状況に陥りつつある理由として、トランプ大統領の自分勝手な行動や主張が報道されることも多いが、私は彼はMADMAN戦略(トランプ大統領の「マッドマン」心理戦略--春名幹男 | ハフポスト)を巧みに使いながらも、アメリカの国益をきちんと追及しているように見える。これは、世界戦略が協調の時代から自己利益追求の時代に変化しつつあることが最大の理由であろう。

 簡単に言えば、グローバリズムにより国家の利益を最大化できていた国々(例えば、アメリカや日本、欧州など)が、その戦略では不都合が生じ始めたことである。こうしたグローバリズムというプラットフォームを利用して、利益をかすめ取り始めた存在は二つ。一つはグローバル企業やタックスヘイブンなどを用いて税金を払わない人たち。そして、もう一つが中国などの先進国と発展途上国を使い分ける国である。

 

 現在、世界で注目されているのは後者の中国とアメリカの対立ではあるが、世界的に導入されているシステムでは、まず前者がテロ対策等を理由にして大きな制限が加えられつつある。資金の移動に関する国際的な情報共有(https://www.fsa.go.jp/news/30/20180817amlcft/20180817amlcft-1.pdf)である。

 前者のグローバル企業も後者の中国という国も、既存のルールをうまく活用して抜け道を見つけ、利益を拡大していった。当初は、そうした企業や国家の成長が、先進国の利益につながるであろうことから許容されてきた動きではあるが、それが看過できないところまで広がったからこそ、現在の様々なトラブルが引き起こされていると見るべきであろう。

 

 大凡、いつの時代でもルールによる規制と、それを掻い潜る人や団体のいたちごっこが繰り広げられてきた。一見理想的に見える制度も、そのような人たちが暗躍し始めると途端に利権構造出来上がる。国際的なものでなくとも、税金に巣くう仕組みは聞いたことがあるだろう。誰もが、常に楽にお金を得る方法を探しているのだから。

 多くの規制は、善良な人々の方を苦しめるといわれる。大部分の人たちが制度の趣旨を守り真面目に利用しているのに、一部の制度を悪用する人たちのせいで制度が複雑化し利用が難しくなっていく。そして、ある時仕組みそのものが大きく作り変えられる。

 

 現状、世界で起こっているのはそうした枠組みのパラダイムシフトであると考えた方がよいだろう。急激な変更は革命と呼ばれるが、そこまでの激変は望んでいない。だから、少しずつ時間をかけながら痛みが少ないように進められている。

 短期的な一部を取り出して見ても、全体像が容易には見えないこともあるだろう。新たな冷戦とか呼ばれるのは、こうした枠組みの変更が呼称されている。日本のポジションはアメリカと共に進む方向であるが、例えば韓国はどちらに向かうのかと問われたりもしている。GSOMIA問題が囁かれており(「GSOMIAは重要」米が韓国に継続要請か : 国際 : 読売新聞オンライン)、韓国が離脱するのではないかという予想もされているようだが、個人的な意見としては今回の離脱はないと思っている。だが、万が一それがなされるようなら、韓国からは一気に大量の資本が逃げ出すだろう。

 

 大きな枠組みが変わる時代には、それに応じた混乱が巻き起こされる。その詳細を予測することはできないが、安定が続くという幻想を抱かなければそれなりの対応が可能となるだろう。日本は長らく安定という眠りについてきた。それは心地よい物ではあったが、私たちの気力をむしばむ麻薬のようなものでもあった。

 こうした混乱は、1年や2年で終わるものではない。10年、あるいはそれ以上かけてゆっくりと、そして何かきっかけがあれば急激に、物事が変化していく。香港問題も、台湾問題も、ブレグジットも、そしてイラン問題も、ドイツ銀行問題も、世界中は火種に満ち溢れている。

 

 大変な時代ではあるが、だからこそこう言いたい。

「混乱の時代にようこそ。さあ、それを楽しみましょう」