Alternative Issue

個人的な思考実験の、更に下書き的な場所です。 自分自身で消化し切れていないことも書いています。 組織や職業上の立場を反映したものでは一切ありません。

地方銀行衰退が導くキャッシュレス

 現在、日本の中小地方銀行はかなりの窮地に立たされている。低金利時代が続いたことから、銀行業は収益モデルを失いつつある(【金融異変~地方銀行の苦悩(中)】再編でも「地銀」64行、利ざやとれない…共倒れに危機感(1/3ページ) - 産経ニュース)。また企業への貸し付けについても、企業サイドが様々な資金調達スキームを手に入れたことで優良貸出先であった企業ほど縮小している。銀行の収益モデルは、基本的に安い金利で資金を調達し、それよりも高い金利で貸し付ける利ざやにある。だが低金利が続き、借り入れ希望が減ればそのモデルは成立しない(https://www.dir.co.jp/report/research/introduction/financial/regionalbank/20170213_011677.pdf)。そこで起死回生を狙い、企業ではなく個人ローンやアパートローンに活路を見出そうとしたが、過剰融資が問題となりそちらもあまり先が見えない(地銀の経営悪化、歯止めかからず 構造的問題に打開策なく (1/2ページ) - SankeiBiz(サンケイビズ))。スルガ銀行問題(スルガ銀行は、一体どこで道を間違えたのか | 最新の週刊東洋経済 | 東洋経済オンライン | 経済ニュースの新基準)などは、その典型と言えるだろう。日銀もこの問題が深刻であることは理解しているようで、いくつかの発言が飛び出している(日銀総裁:人口減少下で低金利続くと金融システムの不安定化も-講演 - Bloomberg)、(80円台の円高十分ある、日銀はマイナス金利で貸し出しも-早川元理事 - Bloomberg)。

 地方銀行の経営力に疑問は数々出されているが、本当に直ぐにバタバタと倒産していくか、あるいは合併が続出するようになるかと言えば、必ずしもそうとはいえないという意見もある(地方銀行は本当に経営危機なのか~2018年3月期決算速報~ - 銀行員のための教科書)。私は地方銀行の経営を大きく揺るがすとすれば、現在地方銀行が収益モデルの一つとして投資しているジャンク債やレバレッジローン債問題(日銀も危惧、邦銀海外クレジット投資過去最大73兆円-米金利警戒 - Bloomberg)の方ではないかと考えている。世界経済が安定している状況なら耐えられるものも、それが急激に変動した時に耐えられるかと言えばわからない。むしろ大量の債券投資が重荷になる可能性は十分にある。リーマンショック時、大部分の邦銀は危ない再建委は手を出していなかったとされるが、今は特に地方銀行を中心に切羽詰ったため手を出している。債権バブルがはじけなければ利回りの良い収入源と言えるだろうが、アメリカの金利上昇が進むほどに状況が不安定になっている。

 地方銀行が今後どれだけ生き残るかは不明だが、銀行という業態は元々大きな人件費を抱えている(「銀行が消える日」がやってくる:日経ビジネス電子版)。保険業界でも、ネット保険というシステムが広がることで人件費を下げ保険料を低下させてきた。既にネット銀行も数多く生まれており、人件費圧縮は地方銀行に限らず銀行業界全体として避けられない。そのしわ寄せがどこに出るかと言えば、店舗数の縮減である。いかに効率よく銀行経営を進めるかを考えれば、少ない人員で確実な収益を上げるシステムを構築するのが生き残る道である。かつて証券会社の大部分は対面型システムだったが、今ではネットにほとんど置き換わっている。小口対応のケースであるほどに様々な手続きを利用者側に転嫁し、人員を縮減することが必須になる。

 こうした流れが進むと何が発生するのか。店舗の減少に伴い、現金引き出し窓口が減少する。今でもATM店舗が数多く存在するが、その維持すら困難になっていく(コンビニATMの「消滅」がほぼ確実と言われる理由 | DOL特別レポート | ダイヤモンド・オンライン)かもしれない。これを解消するのはキャッシュレスシステムの導入である。キャッシュレス化が先か、ATMの減少が先かは明確でないが、どちらにしても両者のスパイラルは進行しつつあるようだ。そして、今でもネットバンキングにより現金を用いずに送金や支払いが容易に行えるが、これを広げるというか、広げなくてはやっていけない状況が近づいていると考える。利用者側からしても、現金引き出しのために遠くの店舗まで出かけ、しかもそこで長らく待たされる不便さが今以上になるとすれば、必然的に現金は扱い難い存在になっていく。

 現状、小規模店舗などで現金決済以外が困難なことがキャッシュレスを広げきれない要因の一つとなっているが、QRコード決済は安価に導入可能であり、消費者側の要求が高まれば進展していくであろう。私も個人的な希望では現金主義である。そしてキャッシュレスシステムへの疑問も書いた(キャッシュレス社会は本当に便利なのか - Alternative Issue)。ゆうちょ銀行の預入限度額が拡大される話(ゆうちょ銀の預け入れ限度額を2600万円に倍増へ、民業圧迫と金融界 - Bloomberg)もあって、金額よりも利便性で一時的には今まで以上に預金が流れる可能性もあるだろう。ただ、大きな流れはゆうちょ銀行だけでは押しとどめられないと考える方が素直である。

 現金中心主義は、現金を容易に入手できる社会インフラと共に成立してきた。仮にそのインフラが衰退するとすれば、現金主義はその根底からひっくり返されてしまう。お金のデータ化に対する不安感は未だ大きくとも、現金決済に大きな支障が出るようになれば衰退していくのは自明であろう。地方銀行から始まる流れは、その先大手銀行にも波及していく。新しいビジネスモデルへの大きな転換期だからこその動きではないだろうか。