Alternative Issue

個人的な思考実験の、更に下書き的な場所です。 自分自身で消化し切れていないことも書いています。 組織や職業上の立場を反映したものでは一切ありません。

IWC脱退の意味

 日本政府がIWC国際捕鯨委員会)脱退を決めた(政府がIWC脱退を表明(共同通信) - Yahoo!ニュース)。このことは、単純な捕鯨問題に焦点を当てたことよりも、日本を縛っていた国際機関至上主義に風穴を開けたという点で大きな意味を持つ。もちろん、IWCの在り様が宗教色を強く帯びていることは、良し悪しは別にしても既に多くの人が気付いるだろう。実際、これに関してメリットデメリット共に多くの情報が出ている(IWC脱退で日本の捕鯨はここが変わる。4つのポイント | ハフポスト)。この判断については脱退推進の水産庁と脱退に消極的だった外務省の駆け引きがあり、最終的には政治判断により決着した(水産庁VS外務省、捕鯨めぐり攻防 最後は政治決着(1/3ページ) - 産経ニュース水産庁と外務省が捕鯨を巡り激しい駆け引き 自民の推進派が決定打 - ライブドアニュース)とされる。外務省は国際機関が自らの見せ場であり、権益を持つため状況維持に走るのはわかりやすい。

 日本は、この脱退によっていきなり大きく漁獲高を上げられる訳ではない。南極海での捕鯨が出来なくなることもあるが、それ以上に日本の食文化が永らくの捕鯨規制により変化しているのが大きい。急激な鯨食文化復活が叶う訳もなく、外国からの批判に応えるために科学的な合理性を明示できる形で行おうとすれば、限定的にせざるを得ないだろう。新捕鯨管理組織の構想(捕鯨支持国を巻き込み…商業捕鯨再開で「第2のIWC」に現実味か - ライブドアニュース)もあり目に見える形での商業捕鯨を確立するとすれば、抑制的にならざるを得ない側面もある。実際、IWCにも数の上では劣るが捕鯨推進国はおおよそ40%存在する(国際捕鯨委員会 - Wikipedia)。このあたりとの協調体制が今後探られるだろう。

 さて、今回の脱退は日本における国際協調主義との別離を考える上で試金石となる。トランプ政権が、自国第一主義を掲げ条約や国際機関へのNOを突き付けている流れも、全く関係ないとは言えないであろう。国連ついても人権委員会ユネスコの悪用が話題になったりするが、国連を利用した各国間の情報戦争がアメリカにとって看過できなくなってきたことがある。同じことは日本にも言え、日本いじめの道具として活用されている事例も少なくない。極論を言えば、国連そのものを見直した方が良いという意見もちらほらとでているようだが、そこに行き着くのは早々簡単な事ではない。私自身、かなり前ではあるがそうしたエントリ(新国連 - Alternative Issue)を書いたこともある。

 IWC脱退が、個別問題として日本に有利な結果を導くかどうかは不明である。短期的には批判の方が大きくなると思う。その理由は、日本を縛り付けるための手段として有効だからである。しかし、中長期的に見れば国際機関の在り様に不満を感じた場合、日本はそれから離脱することも選択肢として持っていると見られることの方が、国際間交渉において有利となる。これは、何も率先して無理な脱退を推奨するものではなく、日本が新たに切れるカードを持つことに意味がある。それをより実質化するためには軍事力の背景が重要ではあるが、いきなり日本が立場を変えられると考えるのは非現実的だろう。まずは、離脱という選択肢を日本が持ったと認識させるという第一ステップと考えるのが良い。

 同様の事は個別事例においてよく見かける。例えば、韓国の挑発が目に余るようになっているが、これも日本が実質的なカードを切らないと高をくくっているからこその現象である。韓国と日本の信用を比べれば、明らかに日本の方が国際的な信用度は高いであろう。同様に中国と比較してもそうであると思う。国際間の信用は重要である。だが、現実には信用無くとも自国にメリットがあれば信用より金や物を取るのを、私たちはインドネシアにおける高速列車事業その他で何度も見てきた(ついに着工「インドネシア高速鉄道」最新事情 | 海外 | 東洋経済オンライン | 経済ニュースの新基準)。信用はベースとして重要であるのは間違いない。だが、それは他の個別の事情を差し置けるほどのものではないのである。外務省の問題は、この点における価値観がずれていることにあるだろう。

 日本の国家としての良い点は、相手を信用することから入ることである。特に国際機関を尊重する姿勢はどこの国よりも高い。そして、こうした姿勢が一定の高い評価を受けてきたのも事実であろう。特に第二次世界大戦における敗戦国としての立場から、とにかく下手に出ることを戦略の前提としてきた。そしてアメリカの支持も得て上手く高度成長を達成できた。つまり国際協調主義が日本にとってメリットを持ってきた時期があったのは間違いないだろう。だが、現在の世界情勢は変化している。新しい枠組みの中で日本が取るべき道を考えることは、何よりも重要となるだろう。